明日は、職場内の昇進に関わる試験の日。ベッドの中、ついつい明日のことを考えて眠れず、ゴロゴロと頻繁に寝返りをうつ。
「緊張してるの?」
隣から、同じベッドで寝ている妻の声が聞こえてきた。
「うん。わるい、うるさいよな、ごめん。眠れなくてさ」
俺が情けなく返すと、
「いいのよ。昔から緊張しいだものね、あなた」
と言い、ふふっと笑った。俺はその微笑みに少し救われた気持ちになる。
「……ねえ、手、繋いで眠らない?」
妻が柔らかい声音で言う。
俺がどういうことかと顔を向けると、妻の優しい眼差しと目が合った。
「昔、あなたが、就活で不安がってた私の手、握って添い寝してくれたことあったじゃない?あれ、すごく安心したの。だから、どうかなって」
何年も前、俺たちが学生だった頃のことだ。確かに、そんなこともあったか。
「では、よろしくお願いします」
そう言って、俺は右手を差し出す。妻は、俺のかしこまった言い方をおかしそうに笑って、自分の左手を繋いでくれた。
2人で仰向けに寝て、目を閉じる。右手から妻の体温が伝わってきて、ゆっくりと全身に染み渡っていく。ゆっくりと、緊張が解けていくのがわかった。
「大丈夫だから、心配しないでゆっくり寝ましょ。
おやすみなさい」
妻が小声で言う。“大丈夫”。決して力強い言い方ではなかったけれど、妻にそう言われると、本当にそんな気がしてくるのだから不思議なものだ。
明日、大切でちょっと怖い試験があるという事実は変わらない。だけど、妻と一緒なら、その壁も越えていける。そう信じられる力を、この人は俺にくれるのだ。
「こういうとき、君と一緒になれてよかったなあって思うよ。ありがとう。おやすみ」
心から湧いてきた想いを素直に告げて、俺はやってきた睡魔に身を任せた。
1/7/2025, 8:27:43 AM