NoName

Open App

パラレルワールド

 夕食の後、洗い物をしていたら息子が「親父は?」と聞いてきた。
「和室でしょ」
「もう行ったの?じゃ俺も」
息子は急ぎ足で廊下へ出て行き、ピシャンと障子が閉まる音がする。
 私は洗い物を済ませると、エプロンを外しながら娘の部屋のドアを叩いて「そろそろ和室に行くよ」
と声をかけた。
うたた寝していたらしい娘は、のろのろと顔を出し「めんどくさ……」とぼやきながらも素直についてきた。

 週末は一家で和室に集う、そう人に言うと「仲良しねぇ」と驚かれるが、うちは決して仲の良い家族ではない。
夫とは最低限の会話しかないし、子供たちも好き勝手している。
 私は廊下の奥にある、和室の障子を静かに開けた。
六畳間の床には、畳の代わりに夜空のような闇が渦巻いていて、その先はパラレルワールドだ。
 こちらの生活は仮の姿、向こうの世界で私たちは腕利きのハンター一家として名を馳せている。
サバイバルを生き抜くには、仲が良かろうが悪かろうが、家族一丸となるしかないのだ。
 「行くよ、ママ」「うん」
娘が先に渦へと飛び込み、私もすぐ後に続いた。

9/26/2025, 4:52:40 AM