よる、しずまりかえった世界で
そっとまどをあけて、
キラキラかがやくお星さまと
まんまるお月さまの
浮かんだお空の世界をふわふわおさんぽするのだ。
もっとなれたら、あい色のお空に冒険だ。
ほうきにまたがって、そら高くとび上がって
お星さまをそっとつかむのだ。
きっと温かくて、まぶしくて、何より
キレイにピカピカ光る。
お星さまをしまってもっともっと高くとんだら、
お月さまにたどり着くのだ。
きっとうさぎさん達がぺったんと餅をついて
ぴょんぴょんはねている所に混ぜてもらう。
きっとそんな事が出来るなら、
ぼくもすごい「魔法使い」になれるよね?
眠りにつく前。
あの人に似ている星のようにキラキラと
輝かせた眼で、愛しの子は語る。
眠いだろうに、小さな瞼をごしごし擦るので
そっと手を掴んで布団の上へと導く。
「まだまだあんたには難しいわよ?」
そう宥めても眠れぬ君に、
「魔法」の言葉をそっと唄えば
とろんと星の瞳は瞼の下で微睡んだ。
技術が発展し、昼夜問わず光の灯り続ける現代社会。
残念な事に、奇跡…或いは恐怖を起こす
「魔法使い」「魔女」はとうの昔に排斥された。
今や私か、遠い遠い顔も知らぬ過去の隣人位しか
魔女の裔の生き残りは居ないのだろう。
奇跡と謳われた「魔法」に然程興味の薄い私は、
扱いを知る祖母から学んだ後は、ただ漠然と
他人に明かすのでもなく一生を終えるつもり…
であったのだが、妙な運命に導かれたのか
気付けば一児の母、という奴になっていたのだ。
紆余曲折や大騒動もあったが今や過去。
話し出せばただの蛇足。関係のない話である。
こんな私と生涯を誓ってくれたあの人は
もう居ないけど、私には大切な愛し子さえいればいい
柔らかな幼い寝顔を横目に、部屋を出たら
この時間に相応しくない電子音。
むっと苛つきながら携帯を取り出せば、何と珍しい。
遠い昔に縁を切った、実家に住む弟からである。
それなりに仲は良かったこの弟は、「魔法」に
憧れを抱いていたようなそうじゃないような
一回り近く離れて居たし、喧嘩別れで家を出たので
氷が溶け切って味の原型もない飲料位に記憶は薄い
終わりのない通知音にちょっと、いや大分
鶏冠に来ながら律儀に出てやる。
怒り混じりにの私の声に萎縮したのか
「あ、う」としどろもどろのビビり状態
久々なのにこんな非常識な時間とは何事か
愛し子にまで響かない程度にガンガンがなり立てるが
昔より低いながらもおどおどした声は、
とんでもない爆弾を投げつけてきた
「いや、あの。こんな時間にごめん。姉ちゃん。
でも姉ちゃんにしか、言えないんだよ………
姉ちゃんと婆ちゃん以外に、
「魔法」を 使える子がいたんだよ。」
いやマジで。とか、色々あったんだけど。
などと続いた言葉は一切合切聞こえなかった
暫く呆気に取られた後に
「はああああああああ!!!!????」
と、うっかり近所中に響く声を出してしまったのは
きっと。奇術趣味の愚弟が全て悪いのだ。
11/2/2022, 3:00:19 PM