28風に身をまかせ
物心ついた時から異常に鼻がよく、名前の無い落とし物の主を匂いで当てたりすることがよくあった。不思議なことに、人からの匂いにしか発揮されない敏感さで、知らない人の匂いをひたすら追いかけて家を突き止めることまでできてしまった。いい匂いも良くない匂いも、ふわりと風にのって、嫌も応もなく目の前に現れる。
「それで、すみれ組のまいこ先生、また主任のゆきえ先生に怒られててね…」
「あそこ二人ってまだ仲悪いのねー!」
まさに、こんなふうにだ。
いま、目の前で噂話で盛り上がっているママ友からは、愛ちゃんパパ、優希くんパパ、楓ちゃんパパ、それにうちの夫の匂いがする。
私は帰ったらさっそく、この3人の奥さんたちとの秘密の通話グループを作る。この鼻の鋭さについては、みんな知ってるのに、なんて迂闊な人だろう。
私たちは、対策を話し合わなくてはいけない。
あとのことは…、そう、風に身をまかせて、どうとでも、だ。
5/14/2023, 10:55:30 AM