秋の訪れ
朝夕がすっかり涼しくなった。
ちょうど今くらいだな、と紫堂はカーディガンの袖に手を隠しながら考えた。
ーー今年の秋に死ぬつもりだから、バケットリストの消化に付き合ってほしい。
密かに片想いを拗らせていた相手、安永海星から頼まれて、彼が十代の頃に出来なかった青春ごっこに付き合った。それがちょうど一年前だ。
言うつもりはなかった。墓まで持っていくつもりだった。
だけど、ついうっかり口を滑らせてしまって、そしてーー
家にひとりでいる海星は、古いソファにだらしなく沈むように座り、テレビを見ていた。秋に訪れたい、紅葉狩りスポット特集だ。見るともなしにぼーっと眺めていると、ふと、景色が心に刺さった。
ーー紫堂と行きたいなあ。
わずかに上体を起こし、食い気味にテレビを見、場所を確認する。
その時玄関のチャイムが鳴り響いた。モニターで訪問者を確認し、小走りで玄関に向かう。
「紫堂! ……あれ? 今日、約束してたっけ?」
あまり感情が表に出ない紫堂の表情からはなにも読み取れない。もしかして約束をすっぽかしてすまったかと、恐る恐る尋ねる。
「いえ。その……俺が会いたくなっただけ、です」
白い頬がほんのり朱に染まる。
「めっちゃ運命! 俺も今紫堂に会いたかったんだよ!」
腕を引っ張り、室内に連れ込む。そしてほら! とテレビを指さした。
「紅葉狩りに行こうよ!」
「……嵐山まで?」
「……遠い? やっぱだめ?」
紫堂の顔を覗き見る。
「なんでだめなんですか? 海星が行きたいんでしょ。なら、休みを合わせて行きましょうよ」
「うん!」
ーー俺にとって秋は、終わりを予感させる季節であった。
子どもみたいにはしゃぐ海星を見ながら、紫堂は考える。一年前の今頃は、海星の隣にいられるとは思っていなかった。それも、友人ではなく恋人として。
秋が訪れるのが嫌だった。けれど今は、こんなにも心が弾んでいる。
10/1/2025, 11:52:01 AM