センチメンタル・ジャーニー:感傷旅行のこと。特に、失恋の傷を癒すための旅のことを指す。
「センチメンタル・ジャーニー」という言葉があることは知らなかったが、今回の旅行とも言えないこの小さな旅はまさにそう言えるものなのかもしれない───
「あぁ…思い出すとッ、ダメだな…ハハッ」
自然を見ると落ち着くかもしれないと思い、少し遠出をして人気の少ない山に登ったが、失恋の傷は寧ろ広がるばかりだった。
キラキラと日を反射する海、だんだんと紅葉してきた山々、山々の間を通り抜ける涼やかな風。
壮大な自然の美しさに少し小さくなった傷は、“アイツ“と一緒に来たかったという思いで今まで以上に広がってゆく。普段なら心地のよい爽やかな風も、今では俺の傷を突き刺す冷たい針のように感じる。
「アイツさぁ?あんなに気持ち悪がらなくてもいいじゃんか〜ついさっきまで、友達だったってのに……」
現実逃避を甚だしいが、こうでもしないとやっていられない。
「…あーぁ、あの時は、楽しかったな…グスッ」
目からポロリと涙が零れる
「はっ…人は見当たらないとはいえ、外で泣くとかッ…子供かよ笑…」
「グスッ、マジでッ…どうやったら止まるんだよこれぇ……ひくっ…うぅぅ〜…」
手すりにかけていた手を離しその場に蹲る。泣いている姿を見られたくない彼のその場でできるせめてもの抵抗だった。…一般男性並みの身長とはいえ、傍から見たら余計に子供らしくなっていたが。
「…グスッ」
「あの…」
「ひぅっ!?」
人がいないと油断していた中での他人の声に、彼は驚き痕は消えないと分かりつつ急いで涙を拭う。
「な、なんでしょうか?」
「あ、その…何があったんですか…?登っている途中で泣いてる声が聞こえたので急いで来たらあなたが蹲ってたので…大丈夫かな、と…。」
「あぁすみません、大丈夫です…グスッ」
「…あの!もし良ければ〜なんですが、ハグ…とかします?」
「…はい?」
およそつい数分…いや、数十秒前に出逢った人に言うことじゃないその言葉に俺はフリーズした。
「あ、そのハグって言うか〜いやまぁハグではあるんですが…。ハグをすると幸福度が上がる…とか安心する〜という話を聞いたことがあって!」
「あぁ、その話は聞いたことがあります…けど…。」
たしかにその話は聞いたことはある…が、そんなついさっき出逢った人としても効果はあるのだろうか…。
「ど、どうですかね…?」
「えっと、じゃあ…お願いします…。」
押しに負けてしまった…。
返事をしてしまったものは仕方がないので、そっと抱擁をするために近づく。正直少々どころではないくらい照れくさいが、まぁ…顔が見えないだけマシだと思っておこう。
抱擁をかわすと、先程までの多弁が嘘のように何も言わずに俺を強く抱きしめてくれた。
「ひっく…グスッ…あれっなんで…っ、さっきまで止まってたのに…グスッ」
「…辛かったんだね、でも、“僕“がいるから大丈夫だよ」
そう言う“彼“の優しさと温もりは、俺に新たな恋をもたらすのに十分すぎる程だった。
9/16/2025, 4:31:28 AM