anonym

Open App

香水の甘い香りにふっと包まれる。
部屋の片付けをしていたら引き出しの奥底に、何故か隠されるように仕舞われていた箱に興味が湧いて開いてみればそれは香水だった。ほとんど使われていないようにも思えるが一応開封済みらしく、首を傾げながらも手に取った。こんなもの買ったっけ?正直記憶に無い。好奇心から手首に一度吹きかけた。
その途端胸いっぱいに広がる甘い香り。前触れもなく涙がぼろぼろと零れては頬を伝って落ちていく。これは確かに君の、君が着けていた香り。その香りが好きだと、お揃いになりたいと言ったら誕生日にくれたもの。初めてこれをつけてデートに向かったらいつまで経っても君は来なくて、諦めて帰ったら君が事故に遭った、と。二度と会えない君のことを何故忘れていたのか。
いや、違う。思い出したら遣る瀬無くて辛くて愛おしくて泣いてしまうから記憶の奥底に封じ込めたのだ。手放すことが出来ない君の香りと共に。

香水は、香りは記憶と結ばれているから、と。



[香水]

8/30/2022, 12:44:16 PM