一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・瞳

「まるでたくさんの目みたいだ!」
満天の星空の下で、少年は体を硬直させた。
都会育ちの彼が知る夜空は、わずかな星がまたたく空だった。
ピアノの発表会を数日後に控えた彼を、両親は山間のキャンプ場に連れ出した。
両親に声をかけられるまで、彼はずっと夜空と静かな対峙を続けていた。
彼を見下ろす目は温かいとは言えなかったが、不思議と平等なものに感じた。

発表会当日、彼は発表会の壇上に登った。
心臓が喉元まで持ち上がる。吐きそうなほどの鼓動に、逃げ出したい衝動に駆られた。
拍手に迎えられ、客席に一礼し顔を上げる。
客席の無数の視線が彼に注がれていた。
「あっ、星の目だ」
緊張よりも先に、脳裏に静かに見守るような星々の瞳が広がった。
指先の震えが止まった。
少年は静かにピアノに向かった。

テーマ; 星空の下で

4/5/2026, 11:57:59 AM