※2日分のお題を掲載しています
お題「優しくしないで」
「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」
ウィルはそう言いながら本を閉じて、サルサに向き直った。
「……どうしたんですか。今日一日、いや昨日から浮かない顔してますけど」
首を傾げながらウィルが問いかけるとサルサはちょっと目を逸らしながら呟いた。
「…………昨日、お昼の後に迷惑をかけたじゃないですか」
「……ああ、はい」
「それなのに、ウィルさんは戻ってこれて良かったって言うだけで……」
「……何が言いたいのか、分かりかねますよ」
ウィルはため息をつきながら眉を下げた。
サルサの目はあっちに行ったりこっちに行ったりと揺らめき続ける。
「その……優しくしないでほしくて」
絞り出すように紡がれた言葉にウィルはゆっくりと瞬きをしたあと、困ったように言った。
「……………………突拍子がなくて理解できませんでした、もう一度」
「……怒って欲しいんです。アリアさんみたいに」
サルサは一言一言をゆっくりと言ったが、ウィルは首を振った。
「わけが分かりません。何故?」
「一人で行ける、なんて言って中々帰って来れずに心配をかけた上に、危ない所に行ってしまってたんですよね。怒ってください」
「……説明しなかった私にも責任はありますし……」
「怒って、ください!」
サルサは若干声を荒らげてそう言い、ウィルはため息をついた。
「……怒ってほしいんですか? 何故?」
「悪いことをしたんです。優しくしないでください」
「…………ダメですよ、サルサさん」
諦めたようにウィルは言ったが、サルサは納得しなかった。身を乗り出すようにして口を開く。
「それは怒ってないですよね。怒ってください」
「私が怒られてません?」
ウィルはため息をつきながらサルサの手を取って言った。
「…………言っておきますけど、怒られないことは諦めでも見放しでもありません。貴方が悪いだけではないからです」
「…………本当に?」
サルサは歯を食いしばりながら恐る恐るそう尋ねる。
「本当に。だから、わざわざ怒られようとしないでくださいね」
ウィルがそう言うと、サルサはコクンと頷いた。
お題「永遠の花束」
「今日は実践ですよ」
ウィルは外に出るとそう言った。ニコニコと微笑んだウィルに対してサルサはちょっとだけ困った様子で彼の隣を見やった。
「……どうした?」
プロムが片眉をあげながら問いかける。サルサは目を逸らしながら言った。
「なんで、いるのかな……なんて」
「ほぉ。大層な口が叩けるようになったんだな」
「……プロムさん。貴方の口調は厳しすぎるんですよ。優しさが霞むじゃないですか」
「……優しさを振りまくのは得意では無い。それに、お前に優しくする必要は無い」
ふん、と鼻を鳴らしたプロムは、しかしウィルの言葉が引っかかったかのように若干物腰を柔らかくしながら言った。
「……監視だ。ウィルがきちんと働いているかのな。だから、まぁ、なんだ。……お前はいつも通りで構わない」
「……は、はい!」
「……かしこまらんでいいと言ったが」
「貴方の口調が――」
「……ウィル。侮辱に見えるぞ」
厳しい口調で言葉を止められてウィルは小さくため息をついた後、懐から花束を取り出した。
「……さて。余計な話はここまでにして本題に入りましょうか」
「……花束ですか?」
色とりどりの花が収められた花束は何の規則性もなく並んでいたが、何故か綺麗な色合いになっていた。
「花束は花束でも『永遠の花束』です」
「永遠……?」
「はい」
サルサは首を傾げたが、ウィルは微笑みながら頷いただけだった。ため息をつきながらプロムが口を開く。
「……永遠に枯れることがない花束だ。造花ではなく、生花の時を止めて永遠に枯れぬ花が集まっているということだ。理解したか?」
「……あ、なるほど」
サルサは頷いて笑顔を見せる。プロムは彼に目をくれただけで、ウィルの方を若干睨んだ。
「…………説明しにくいことでしょう?」
「だからといって『永遠の花束』とだけ言われて理解出来るわけがなかろう。分からないものを分かるようにするのが教育係なんだぞ」
「……はぁ。分かりました」
ウィルは心底嫌そうに答え、プロムの方には目もくれなかった。
「で、この永遠の花束を使ってサルサさんの『魔法のようなもの』の力を使いこなせるように鍛錬していきます」
ウィルは微笑みながらサルサに花束を渡した。
「が、頑張ります!」
「……気負いすぎないようにな」
プロムは目を伏せながらそう呟いた。
2/5/2025, 4:44:01 AM