私には憧れの人がいます。
彼には青がとっても似合ってて、だいたい葵外套をつけています。気分次第で白い服を身につけて、清楚な印象の時もあります。
私と彼は、幼馴染という奴で昔は一緒によく星を見たり、泥んこ遊びなんかをしてたと思います。
若い頃の彼は、今とはまた印象の違う明るい子で、眩しい笑顔をよく私に向けてくれたのを覚えています。
ですが、私が引っ越してからは、疎遠になってしまったので、今は話すことも会うこともなくなりました。
それでもやはり彼のことを見ていると、心が震えるのです。昔みたいに一緒に喋れたら、お揃いの服を着れたら、なんて夢を見ます。
ですが、所詮、夢は夢のまま、叶いっこありません。
今日も私は空想しながら、空を見上げていました。雲の間に青と赤の星々が煌めいていて、隣人はあいも変わらず熱苦しいです。
「なんだ、ずいぶん辛気臭い顔してるじゃねぇか」
声の方へ眼をやると、そこには、背の小さい、薄汚れた服を着た旅人がいました。
「何か用ですか?」
「いやなに、あんたが辛気臭い顔をしてたんで、思わず声をかけちまったのさ」
悩みながらも久々に声をかけられた嬉しさもあって、私は事情を話しました。
「実は、ずっと前から好きな人がいるんですが、今はもう疎遠になってしまって、
お互いに見えてはいるのに話したり触れたりできないんです」
「全然反応してくれないから、別の人のところにいったり、消えてやったりもしました
でも、虚しいだけで…」
「そうなのか…」
旅人は頭を撫でて、少し唸ると、こう言いました。
「俺が背中を押してやる、叶わない恋なんて悲しいだけだろ」
そう言って私に軽く触れてきます。
「でも…、今彼には何か事情があるのかも」
躊躇の言葉が漏れ出しますが、結局はわたしは彼の助けを借りることにしました。
青くて丸い彼がゆっくりと確実に近づいていきます。もはや言葉も解さなくなってしまいましたが、それでも一緒がいいと思うのです。
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オレンジの空が広がる海岸、砂地が何処までも伸びている。この時刻であれば、本来、干潟は潮が満ち、青々とした海水が広がっているはずだ。
しかし、今日はその気配がまるでない。釣りのために休暇を取ったのに、海を眺めて黄昏る羽目になっている。
「しょうがないか」
このままだと帰りが十一時を周りかねない。
岩肌に置いた釣竿とバケツを持ち、帰り支度を進める。車に乗り込もうとしたところで、通行人の話が耳に入った。
「昨日の月みた?」
「見たよ、大きくなってたよね。
なんか惑星がぶつかって、少しずつ地球に近づいているらしいよ」
『恋物語』
5/20/2023, 10:00:57 AM