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 家に行くと、机に置かれたランタンが真っ先に目に入った。他のインテリアの中で、そこだけ雰囲気が違う。「ランタン?」と言うと、「ああ、実はキャンプが好きなんだ」。知らなかった。スポーツが堪能なのは知っていたけれど。「最近は、なかなか行けなくて。これを置いて雰囲気だけでも、ね」。いいでしょと笑う。

 ランタンの赤い色がなんだかかわいらしい。夜、外で見るこの灯りはどんな感じなんだろう。それから、キャンプの話をしてくれた。アウトドアとは、全く縁のない私にはとても新鮮だった。「キャンプ、今度一緒に行こうか。火を焚きながら、ぼーっとするのがいいんだ」。
 
 この赤いランタンが灯る下で、焚き火をする光景を思い浮かべた。とても良さそうだ。自分では、多分体験しない世界。一緒なら楽しめる気がした。しばらく楽しい想像で盛り上がった。
 
 それは、結局実現することはなかった。でも、ふわっと優しいランタンの灯りのように、心にずっと残っている。

「記憶のランタン」

11/19/2025, 8:22:02 AM