「眠っちゃいましたねぇ、瑞希くん」
夕方から夜に移り変わる時間。殆ど貸切のようなある田舎のバス内で、私と白髪の彼だけが起きていた。
「今日はみんなはしゃいでましたから。疲れちゃったんでしょうか」
そう言って、彼は窓の外を見ていた。
無理矢理少しだけ結んだ白髪がこの時間によく映えていた。
「私、海って久しぶりなんですよねぇ。何年ぶりかな」
「…僕も、海なんてすごく久しぶりです」
何かの思いに耽るように彼は目を閉じる。
私も、頭の片隅で思い出してみる。
最後に海に行ったときのことを。
そうするうちに日はどんどん沈んで、窓の外の空が藍色に染まっていた。
「終点ですよ、カタルさん」
そう声を掛けられて、ふっと我に帰った。
「みんなのこと起こさないと。晩御飯に間に合わなくなっちゃいますから!」
「そうですね。僕もお腹空きました」
8/10/2024, 10:24:26 AM