【Love you】
前を歩くたかしの背中を見つめながら、咲は柔らかくため息をついた。
毎日見ている背中だ。
部活をやっていないとはいえ、高校二年にもなると背中は大きい。
たかしの少し丸まった背中さえ、咲にはとても愛おしく思えてならなかった。
「何、後ろから。隣、歩かないの?」
「いや、友達に見られたら、恥ずかしい」
学校からの下校中。
本当は隣に立ち、話しながら帰りたいと思っていた咲だが、それはどうにも出来ない理由があった。
咲とたかしは異母兄弟である。
つまり、帰る家が同じなのだ。
こんなところを友達、もしくは自分のことを知っている人に見られたら、余計な詮索をされかねない。
友達ならまだこう、配慮とかしてくれるかもしれないけれど、知り合いとか同級生は噂におびれをつけて流す可能性がある。
おかしな噂を流されかねない。
それだけは勘弁してほしかった。
「なんか、後ろついてこられるのもなぁ。変な感じなんだよな」
たかしは頭を掻き、面倒くさそうな顔をして、再び前を向いた。
たかしの歩幅は広い。
油断すると彼はいつも遠くに行ってしまう。
駆け寄っては近づき、止まる。
また駆け寄っては近づき、止まる。
頭をよぎるたくさんのことを打ち消して、咲は苦笑いを浮かべた。
そもそも、高校一年生までまったく会った事がなかったのに、二年になって突然、「彼は異母兄弟です。仲良くしてください」なんて。
そんなの出来るはずもないのだ。
どうしても、たかしを兄弟としての目線で見る事ができない。
例えば手を繋ぎながら帰ってみたい。
彼が兄弟じゃなかったらいいのにと思ったことは何度もある。
これは抱くべき感情ではないと、今日もまた、咲は首を振る。
走ればこんなに近い。なんなら同じ屋根の下にいる。
しかし、求めれば求めるほど、遠くなっていく。おかしな話だ。
咲は今日もまた、感情を押し込んだ。
まだたかしに恋人ができないうちは安心だ。
彼に恋人ができる前に、この感情がどうにかならないものか。
まあ、そうなった時に考えれば良いことよ。
そんなことを考えながら、二人は今日も帰路に着く。
2/24/2024, 9:46:54 AM