中宮雷火

Open App

【監禁】

俺は土砂降りの雨の中を歩いて帰路に着いた。
10階建てマンションの6階、ドアの前に立ち、鍵を差して中に入った。
親元を離れて独り暮らし、なので「ただいま」と言っても誰も返事することは無い。

室内はまだ暖房が効いていないので寒い。
さっき買った缶コーヒーを飲むと、体中に温かさが広がった。
勢いに任せてグイッと飲んでしまった。
おいしい。
口の中に広がった苦味を堪能していると、
どこからともなく歌が聞こえてきた。
その歌声にはっとして、急いでクローゼットを覗きに行った。
あいつめ、
今日こそ…

クローゼットを開けると、中に独りの男の子が居た。
歌っているところを俺に気づかれて「あっ、やべっ」という顔をしている。
「俺さぁ、何回も言ったよね、歌うなって。何で歌うのかなあ?お前が歌うと不愉快なんだよなあ」
男の子の頭を掴み、まくし立てるように言った。
男の子は最初、唇をぎゅっと閉じていたが、
いきなり鋭い目をこちらに向けて言った。
「でも、でもあなたはミュージシャンになりたいんでしょう?」
俺はその言葉に苛立ちを覚え、咄嗟に男の子の首を絞めようとした。
「お前っっ、余計なことを言うなっ!」
しかし我にかえり、男の子から手を離した。
彼の目は澄んでいる。
強い眼差しで俺を見ている。
「僕は、諦めていないよ。」
彼が言い終わるのを待たずに、クローゼットの扉を閉めた。

クローゼットの扉を閉めた後、俺は膝をついて座り込んだ。
俺は今日も殺せなかった、
かつての自分を。
明日もきっと、同じなのだろう。

9/30/2024, 11:17:25 AM