もう一つの物語
もし、母の病気がなかったら、
私は今頃どうなっていたのだろう。
中学生として、当たり前のように授業を受け、塾にかよい、部活をして家に帰る。滞りなく友人と遊び、恋をする。そう歩んできた、兄のように。
4人兄妹の中で、わたしは末っ子に生まれた。
私だけ何も経験せずに大人になったのは、タイミング、というものだった。私が中学を卒業して働きに出たことを、大学を卒業した上の兄たちは憐んでいた。
わたしの母は、穏やかであったが、
とある病気により時に暴力的であった。
それは、母の作り出す妄想が、母の心を蝕み、怯えさせ、恐れからくる暴力であった。
人は自分を守るために、時に他人を傷つける。
誰も悪くない、だって、病気だもの。
お医者様が診断したんだもの。
母は母なりに戦っているもの。
偶然、私の学生時代に症状が酷くなったんだもの。
あれが、あの時できた最善だったんだもの。
たまたま、そういうことで、
私は家族に全てを捧げた人生だった。
もし、あの時母が病を発症しなければ。
もし、私の器量が良ければ。
もし、もっと早く周りを頼っていれば。
今とは違う人生だったのだろうか。
今とは違う毎日だったのだろうか。
高校へ行き、授業をうけ、今日みたテレビの話をして、恋をし、部活をして、塾に行く。
制服を着て、髪を整え、化粧に興味を持ち始める。
ステレオタイプとして、邪道を嫌う。
変わったものを毛嫌いし、避けることで、
ストレートに生きる。
でもそうなった私は、「私」なんだろうか。
2024.10.29 創作-もう一つの物語
10/29/2024, 12:44:05 PM