なこさか

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 純粋ではなくても



 魔女様。
 僕に新しい命を、海の外の世界を見せてくれた魔女様。
 暗い海の上に明るい空があることを教えてくれた。
 海の向こうに陸があることを教えてくれた。
 君は嬉しそうに教えてくれた。

 長い水色の髪に、深い青色の瞳。真っ白なドレスに身を包んで、歌っているかのような優しい声。
 その全てが僕の心を魅了する。

 (魔女様。僕は、君を愛してる。純粋とは程遠いけれど……それでも、愛しているんだ)

 素っ気ない態度をとっていた僕に君は手を差し伸べてくれた。寂しいと口に出せなかった僕に代わりに側にいてほしいと願ってくれた。
 君の側にいるようになってから、この気持ちは大きくなるばかりで。何処にも行かないで、僕の側にいてほしいと願う気持ちは大きくなるばかりで。

 (好き、好きだよ。魔女様。誰よりも好きなんだ。いくら言葉で伝えても足りないくらい)

 魔女様はきっと僕の気持ちに気づいていると思う。だから、たまに僕は魔女様のことを強く抱きしめるんだ。その時に魔女様は嫌がるわけでもなく、ただ嬉しそうに笑って「どうしたの?」と聞いてくる。
 その声がたまらなく心地よくて擽ったい。

 「ねぇ、魔女様。大好きだよ……愛してる」

 なんて、もう何度も言っているか。
 
 

 私は、彼のことを愛している。
 海の底で見つけた小さな命。ひらひらと舞うその姿に。
 私のものにしたい、そんな薄暗い私の気持ちを知っているのか知らないのか、彼は私の手元に来てくれた。

 契約を交わし、従属となった彼に名前を与えた。

 「サルム。君の名前は、サルムだよ」

 昔見た、星見の本にあったもの。
 星言葉が高い理想に進むペガサス。ペガサスが本当にいるかは分からないけれど、高い理想に向かってこの先も共にいてほしいと願った。
 普段はつんとした態度をとるサルムだけれど、本当はとても寂しがり屋で甘えん坊であることを私は知っているよ。

 「ねぇ、魔女様。大好きだよ……愛してる」

 こうして時折、甘えてくる彼が堪らなく愛おしい。後ろからぎゅっと抱きしめてくる腕に手を重ねて私は笑った。

 「私も愛しているよ、サルム。誰よりも何よりも、君のことが大好きだよ」

 愛の言葉をいくら並べても、この想いを表すには到底足りない。側にいて手を握り、視線を合わせて、唇を重ねればこの気持ちも少しは伝わるかな。

 (……本当に好きなんだよ、君が思っているよりもずっとずっと。共にいられないならいっそのこと殺してしまいたいくらいに)

 誰かと一緒にいて、心が安らぐことを教えてくれたのは紛れもなく君なんだ。

 純粋とは程遠く、一途よりも深く強い想い。
 私たちはいつまでも共にいられるはずだよ。
 私たちが強く望めば、きっと叶う。




 さて、魔女と人魚が暮らす洞窟を、珊瑚礁の影からこっそりと見る影があった。

 「くくっ……みーつけた♪我が麗しのお姉さま♪ずーっと探していたんだからぁ。少しくらいちょっかい出しても許してくれるよね?」


 

3/4/2024, 3:30:20 PM