#時を告げる
オルゴールのねじを巻くと、音楽にあわせて旅人の人形が歩き出す。
丸い輪の一本道を、コトコトと一心に。
道のわきには赤い屋根のおもちゃの家があるが、人形は目もくれず真っ直ぐ前を向いて歩いている。
遠い昔、旅人が若い魔女にこう言ったのだ。
貴女のことは大好きだ、でも旅は僕の人生なんだ。
…じゃあ永遠に彷徨っていなさいよ!と魔女は泣き、涙は思いがけない呪いとなって、彼の世界をオルゴールに変えた。
旅人は今も旅している。
赤い屋根の家をちょっとでも見てくれたら、魔法がとけるのにな…と思いながら、魔女は切なく頬杖をつく。
オルゴールの錆びた音色は、百年の時の流れを告げている。
9/6/2024, 1:29:21 PM