【逃れられない呪縛】
覚えちまった、アンタの甘ったるい香水の匂い。
ふとそんな事をアンタの髪を撫でながら呟いてしまった自分が、女々しく思えて嫌になる。
これが最後と思いつつも未だ離れ難いのは、あくまでもこの何処か懐かしい匂いのせいであって、決して愛しているからではない。そう思い込もうと無理矢理打ち消した。
「嬉しい。会えなくなっても、この香りがある限り……何処かでこの香りが漂う度、私を思い出してくれるんでしょう?」
嬉しいと言いながら泣き笑いのような、諦めにも似た表情だった。
『思い出す』とは、一度は忘れる事の証の言葉だからだろうか。
「さあな。そんな高価な香水身に着けてる奴に、そうそう行き合う事も無いだろうよ」
「成る程……きっとそうして、私は貴方に忘れ去られてゆくのかも知れない」
馬鹿な女だ。忘れず思い続けるなら『思い出す』必要など何処にある、という単純な話なのだが。
アンタの香りが、俺を縛る。
自分から離れておきながら、今でも呪いのようにアンタの気配をずっと探している。
5/24/2023, 9:49:50 AM