♯もう二度と
『呪いのかけ方』というタイトルが目に飛びこんできた瞬間、オレは思わず「ぇ、」と声を出していた。
ベッドに腹ばいになっていた彼女が、まるで背後から撃たれたかのように勢いよく振り返る。オレの姿を目にするなりケータイのディスプレイをすばやく伏せた。
「やだぁ、見ちゃった~?」
取って付けたような清々しい笑顔。
「だ、だれかに呪いでもかけんの?」
見ちゃいました。と、自白したのも同然だった。
彼女はきょとんと無邪気な目をしていたが、やがて「ふふっ」と短く笑い、布団の上に座りこむ。
「『のろい』じゃなくて『まじない』って読むんだよ」
「まじない? いや、でも……」
同じ意味じゃないのか。オレの思考を読んだのだろう、「違うよぉ」と彼女は言った。
「同じ漢字だけど、不幸をお願いするか、幸せをお願いするかで意味が変わってくるの」
「……あー、つまり、お前のは『まじない』ってコト?」
彼女は天真爛漫な笑顔とともに頷いた。
「うん。だから怖がんなくていいよ~」
スピリチュアル。頭が痛いことに、それが彼女の趣味のひとつだった。
――天は二物を与えずってヤツだな。
つくづく惜しい女だと思う。貞操観念が緩いうえ体の相性はバッチリときている。見目もいい。しかも、たまにおこづかいをくれる。今のところこの好物件を手放すつもりはないが、今後、趣味を強要してくることがあったら関係を切ろうと思っていた。ちやほやしてくれる彼女なら他にもいる。
「もしかして、わたしに呪われるようなコト、こっそりしちゃってる?」
ドキッとして彼女を見ると、彼女のからかうような目が見つめ返してくる。ジョークだとわかり、オレは胸を撫でおろした。
「ばーか、そんなワケないだろ。隠し事なんかしないって」
隣に座って抱き寄せると、彼女が腰をよじってすり寄ってくる。オレの服の裾をぎゅっと握りこんで、言った。
「ねえ、」
「なに?」
「特別に教えてあげよっか? なんの『おまじない』か」
「へえ、いいの? 聞きたいな」
「うん、その『おまじない』はね――」
――もう二度と、
3/25/2025, 5:23:49 AM