宮島

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「ありがとう」を伝えたかった、そんな相手を思い浮かべろという。あえてひとり挙げるとしたら、わたしが高校生の時に他界した曽祖母である。

 曽祖母はそれはそれは温厚な人で、全ての言葉が丸みを帯びているような優しい人だった。92歳で亡くなるまで、自分の身の回りのことは自分で世話をして、「手ついでっていうんだ」と他の家族の分の家事まで一緒にやってくれたりした。
 曽祖母は、初孫の初子(初ひ孫)?であるわたしを大層可愛がってくれた。夏休みなどに曽祖母を訪ねたときは、玄関で顔を皺くちゃにしながら、ぎゅっと苦しいほどに抱きしめてくれたことを覚えている。

 曽祖母の死は日頃の行いが報われたような穏やかな死ではなかった。最後の最後は病気で苦しんでから亡くなったけれど、そのときに伝えた「今までありがとう」の気持ちは今もまだ持ち続けている。

 ひ孫として可愛がってくれてありがとう。くだらない話を聞いてくれてありがとう。無条件に愛されているって教えてくれてありがとう。
 
 ときどき、リビングに飾った小さな遺影の中でダブルピースをして笑う曽祖母を見て思う。これまで曽祖母がいっぱい人に与えてきた分、天国でたくさんの「ありがとう」を受け取る立場になっていますように。

5/3/2023, 12:55:05 PM