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確か小学校3、4年生の頃だったと思う。
毎年恒例の、祖父母との旅行。
一年だけ、凄く鮮明に覚えてるものがある。

祖父が足を悪くして杖で移動していた。
両親と姉は普段のペースで先へ行く。自分は祖父母と同じペースだった。
はぐれてしまうと心配にもなった。それでも祖父母を急かすことはできなくて、なんで先に行っちゃうんだ、と思った。
信号機で止まったところで、言ったと思う。「歩くの早い!」って。
両親は両親で、気難しい時期に入っていた姉のご機嫌取りに忙しかったんだろう。当時の自分はわからなかったけど。


祖父はあまり話さない人だった。旅館に着いた時、部屋に置いてあったお煎餅をたくさん渡してくれた。甘いものが好きだったから、他のものは自分で食べてたと思う。お煎餅は堅いから私に渡したんだと思った。

対して祖母はよく話す人だった。「〇〇は優しいね。ありがとね」そう言ってくれた。祖父母が好きだったから、一緒のペースで歩くことも、いつもより大きな声で話すことも何も嫌じゃなかった。申し訳なさそうにする祖母に大丈夫だと言った。



今思えば、沢山のお煎餅を渡したのは祖父なりのお礼だったのかもしれない。祖母がたくさんお礼を言ってくれていたのも、祖父の代わりだったのかもしれない。

家に遊びに行けばいつもお煎餅を渡してくれる祖父。自分が食べれないのに、なんて思ってた。祖父なりの優しさだったんだろう。たまに大好物のチョコレートも渡してくれた。それこそ、祖母と母が驚く程度には珍しいことだった。
祖母はいつも一緒に寝てくれたり、遊んでくれたりした。好きな食べ物をいっぱい用意して待ってくれていた。今振り返ると、姉より自分の好きな食べ物が多かったような気がする。あれが食べたい、そうリクエストするのはいつも自分だったからかもしれない。けれど、リクエストしなくても大好きなししゃもはいつも出てきた。



祖父の声は今は辛うじてしか思い出せない。
祖母は2人だけで最後に話した日が今も忘れられない。

2人の記憶にいた自分は笑顔だっただろうか。
あの日、6人で行った最後の旅行は、2人にとってもいい思い出であったことを願う。

7/18/2023, 1:38:14 AM