ずっと一緒にいたい、と涙を流したあの人とは、満開の桜を見ることはできなかった。私と一緒にいることに、役目が終わったとでもいうように、あの人は別れを告げた。「ごめん」と、たった一言だけ言って、あとは何も言わなかった。ずっと一緒にいたいと言ってくれた時と同じ表情で、今にも泣き出しそうなほど顔を歪めていたけれど、泣きそうなだけで、あの人は最後まで涙を見せなかった。緊張すると鼻を触る癖があった。私はあの人が何回触るのかを数えるのに夢中で、どうして別れという選択をしたのか、肝心な理由を聞きそびれた。そもそもあの人が誰だったのか、私はちゃんと知っているのか分からない。その程度の関係。その程度の存在といってしまえば、そうなのかもしれない。
目を開けると、黒光りした墓石に私の姿がぼんやりと映る。夢を見ているようだった。墓誌の一番最後に刻まれた名前をそっとなぞる。
「ずっと一緒にって言ったくせに」
指先で感じる凹凸に、あの人の姿を脳裏に思い出す。私のそばで生きていた、あの人のことを。
寂しさとか虚しさとか漠然とした不安とか、そういう見えないものの存在を忘れるほど、きっと、あの人が私の心をそばで守ってくれていた。
ふいに、風が吹く。満開になった桜の木が花びらを撒き散らして、美しい花吹雪を起こした。
「ねぇ。見てる?」
そう言って、ゆっくりと墓石を振り返る。静かな沈黙が自分に跳ね返ってくるだけだった。
「嘘つき」
ぽつり、と涙が頬を伝った。
#君と一緒に 「明日も明後日も、その先も」
1/7/2025, 10:16:34 AM