僕はなんの取り柄もない。
何もかもが平均的で、よく言えば平穏、悪く言えば凡庸。そんな人間だ。
最近はどこにいても個性の強い人がよく目立って、それに少し憧れを抱いたりなんかもする。
ネットを見れば、きっと僕と同じように悩んだ人間が、病名やらネット上の仮初の姿やらを使って、どうにか個性を得て生きている。
それすらできない僕みたいなとは、やっぱりどこにでもありふれていて、一歩を踏み出す勇気もない、迷った子羊みたいな存在だ。
そんな毎日、いつも通りの夕方。
部活もやっていない僕は、どこへ寄るでもなくさっさと直帰して、やることもないけれど寝転がってスマホの画面を覗き込んだ。
意味もなく垂れ流している動画をぼんやり見つめていると、画面の中の楽しげな笑い声が一旦途切れた。
広告か、と飛ばそうとして、飛ばせなかった。
いかにもなフォントと色遣い、どう見たって怪しい文言。
けれど、どうにも惹かれてしまう。
『理想のあなたを手に入れませんか』
そう銘打った広告のリンクを、気付けば僕は踏んでいた。
リンクの先のサイトは、どことなく平成の個人ブログを思わせる作りをしていて、少しばかりのレトロ感を感じる。
中身はよくあるような着せ替え系のサイトで、顔のパーツや服がたくさん並んでいた。
でも、そんなのは目に入らなかった。
その着せ替えの、着せ替える前。それが、あまりにも僕にそっくりだったから。
顔の雰囲気、パーツの形、ほくろの位置から服のセンスまで、僕そっくりだ。
それに、着せ替えサイトなら絶対にいらないのに、服や顔のパーツの欄に続いて、職業、年収、身長、年齢なんかまである。
「理想の自分メーカー」。文字通りなら、きっとこれで、僕は理想の自分を作れる。
試しに身長をいじってみた。少しだけ、今より高く。
メジャーで無理矢理身長を測ってみると、確かに設定した通りになっている。
これは本物だ。そう確信した僕は、理想の、個性があって、かっこよくて、将来に何の心配もない人間に、僕自身を全部変えた。
それからの毎日は、これまでの凡庸さが嘘みたいに楽しくて、僕は定期的にあのサイトで自分を変えている。
でも、やりすぎた。
このサイトには、リセットの機能がないのだ。
日々向けられる、好奇に等しい人の目が、嫌でも耳に入る僻みが、日に日に増していく。
元の凡庸さが恋しくなっても、僕はもう、元の僕を失った。
元の顔も、今の顔も分からなくなって、僕は、ちぐはぐでめちゃくちゃな、生きたまま死んだような生き物に成り下がっている。
でも、戻せない。理想の世界は、僕が思うようなものじゃなかった、なんて気付くには、もう遅すぎた。
テーマ:理想のあなた
5/21/2026, 8:53:05 AM