世界各地で環境破壊が行なわれていた。極めつけに戦争まで起きた結果、地球は人間が住める場所ではなくなってしまった。
それでも、各地にあるシェルターに逃げ込んだ人は今もその中で暮らしていた。外に出ることはできないけれど、それなりに快適だった。
「これは何?」
女の子が近所のお兄さんに尋ねた。
手の上にはガラスでできた容器がある。容器の中には今では見ない形をした家があり、白い粉が降り積もっている。容器を揺らせば、その粉が中でキラキラと舞った。
「あぁ、スノードームだよ」
「スノードーム?」
女の子がきょとんとした顔をする。
お兄さんは優しく答えた。
「この白い粉はスノー――雪と言って、空気中の水分が凍って結晶になったものなんだ。このスノードームの中身は違うけどね。昔、地上では、寒いとこの白い粉が降ったりしたんだって」
「へぇー!」女の子は目を輝かせて言った。「雪、見てみたい!」
「えぇー……?」
お兄さんが困った顔をする。
このシェルターはドーム型をしていて、天井の一角がガラスで出来ている為、外の様子を見ることはできた。
しかし、雪なんて見たことがない。
見えるのはくすんだ色をした空と、荒廃しきった地表だけだ。
「俺も見てみたいけど……いつか見られたらいいな」
女の子の頭にぽんと手を置き、優しく撫でた。
……やけに冷える。
くしゃみをしてお兄さんは目を覚ました。
時刻は深夜。しかし完全に頭が覚醒してしまい、散歩がてら外が見える場所まで歩いていくことにした。
そこに辿り着くと、お兄さんは目を丸くした。
外に、どうやら雪が降っている。暗く広がるガラスの向こうに、白いものが激しく舞っている。
それはこのドームを飲み込む勢いで、あのスノードームの雰囲気とはだいぶ様子が違う。
初めて見る光景に、ただただ立ち尽くした。
『スノー』
12/12/2025, 10:58:14 PM