しるべにねがうは

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鋭い眼差し

普段はなんとも思わない他人の目。
だがしかしやましいことがあれば異様に気になる他人の目。
まぁ世の中には何にもしていないのに他人からどう見えているか気になってるやつばっかりな所があるがまぁそれはそれ。

他人からの目線をどう受け止めるかは自分自身である、そう言うことが言いたいわけだよ俺は。

「それが今生最後の言葉、という事でよろしいですか?」
「だから俺じゃないって…絶対俺じゃないって…」
「私の名前が書いてある大福食べちゃうのは貴方以外ここにいませんー!!第二容疑者の矢車殿は3日前から出張で熱海です!」
「くっそあのオヤジこう言う時だけなんで遠くにいるんだよ…」
「楽しみにしてましたのに…!!笹本が買ってきてくれた大福、あれを楽しみに試験がんばりましたのに…!!」
「あー、大福はねぇけどさ、代わりの奴買ってくるのは?」
「……そりゃ、あればまぁ、いいんですけど。でもあれ、限定なんですよ、駅前の和菓子屋さんの、開店1時間で売り切れる、やつ…」
「あぁあぁあ泣くななくな」
「泣いてませんけど!?」

泣いてる。鼻鳴らしてるもん。お嬢の目尻に大粒の涙が光る。
こすると赤くなるからダメなんだっけ、お嬢肌白いから余計痛そうなんだよな。ぽんぽんとあてるようにハンカチを出す。
幼児の世話でもしてんのか俺は。

「帰ってきたら朝から楽しみにしてた、大福がなくて、ショックで呆けたりしてませんし!?」
「やっべ結構重症だ」
「朝見た時は確かに、ありましたもん!」
「あった、俺も見たそれ、朝は絶対あった!」
「ありましたもんね!?」
「夕方はちょっとわからん!」
「ううーー!うう、うー、でも、もういいです、あたってすみません、もしかしたら食べちゃったの忘れてるのかもしれません、美味しいですからね、一個ってすぐなんですよ、笹本に入れてもらったお茶と一緒にいただくのが、美味しくて」

えぐえぐとしゃくりあげる姿に普段の凛々しさは微塵もない。
最近凛々しさ出てないけど。凛々しさ出てる時大体対おばけの時だから俺的には平和でいいんだけど。

「つか笹本さんはどうしたんだよ、あの人に聞けばすぐじゃねぇの」
「それが姿が見えなくて、石蕗もいませんし、私どうしたら、えへへ1人じゃダメですねぇ私、大福一つでこんな……」

やばいやばいもう誰でもいいから帰って来てマジで。泣いてるお嬢とかどうしたらいいんだお菓子何かないか大福ないんだよな!!
にっちもさっちもいかず右往左往してたら玄関に来客。
救世主!!!

「おい戻ったぞ少年!!!同じじゃねぇけどデパ地下の大福買って来たから包み紙に名前書いておいといてくれー!!!」
「馬鹿野郎あんた大声で叫ぶな!!」
「……矢車殿、出張は?」
「ん、終わったから帰って来て、次博多いってくらぁ」
「その手にあるものは?」
「デパ地下で買って来たフルーツ大福。中身生クリームだから今日中に食ってくれ」
「……矢車殿、なぜそれを買って来たんですか?」
「お嬢チャンが楽しみにしてた大福俺が少年と一緒に食べちゃったからすり替え作戦」
「おい矢車殿、おい必死に時間稼ぎをしていた俺の努力を返せ」
「やん少年、幼気な女の子を泣かすなんてサイテー!」
「しなをつくるなァ!!」
「君も知ってたんですかー!!」
「俺は被害者です!!手を洗った後台所から手招きされて「一口あーげる!はいあーん」ってされました!拒否権ありませんでした!」
「言ってくださいよー!許したのに!!」
「だってこのオッサンが黙っててくれたら俺にも大福更にくれるって言うからっていや許したのかよ大丈夫かお前、あんだけ楽しみにしてたじゃん!?!?怒れ!怒っていい!ごめんなさい!」
「食べちゃったならもう仕方ありませんよ、今回は縁が無かったのです」
「なんでそんなに割り切れんの…怖…」
「何故今私は気味悪がられているのでしょう……」
「もっとワガママに生きていいって事だぜ、お嬢チャン…」
「貴方に対しては怒ります!!!名前書いてあったでしょう!!」
「半分食った後だったんだよな、気づいたの」
「前も同じ事言ってました!!もう専用冷蔵庫考えます…猫を追うより皿を引きます!大体無実の高校生巻き込んで何考えてんですか!いい大人が情けない、今回という今回は許しません!」
「許してお嬢チャン、ほれ生クリーム大福苺にキウイにみかん、ほれほれ綺麗でしょ〜」
「騙されません!すぐそうやって子供扱いする!嫌いです!」
「ほらほらブルーベリー!ほらガトーショコラ!ラムレーズン!」
「………流石に全部は無理なんじゃ」
「シッ!後ちょっとなんだ邪魔するな」
「何が後ちょっとですか!許しません!食べ物は勿体無いので捨てたらもっと許しません!でも私が受け取ると許したと同義と教わったので………………………受け取れません…………うう」
「葛藤がすごい」
「今ならフォンダンショコラもつけちゃいますよ〜!!」


いやもう可哀想だからやめてやれ。
俺が口を出す前にあの人が帰ってきた。

「さて矢車殿、全て聞いていたので言い訳は結構、弁明も聞きません釈明も無効です、とっとと次のお仕事にいきましょうね」
「オワッやべ殺される」
「反応が悪戯バレたクソガキ」
「つわぶきー!!お仕事お疲れ様です!矢車殿連れてってください!早く!」
「言われずとも。お嬢様、良いお知らせがあります」
「良いおしらせ?」
「はい」

はて、と首を傾げるお嬢に優しく微笑みかける石蕗さん。この流れで?

「まず矢車殿、博多にどうぞ」
「アッはい」

そのまま玄関まで追い立てられるようにして矢車殿は去った。車の音がしたからマジでそのまま博多コースかな。
博多ってなにがあるの?通りもん?他知らない。
閑話休題。

「お嬢様、試験お疲れ様でした。苦手な教科を集中的に取り組んでおられる姿を石蕗はしっかり見ていましたよ。結果がとても楽しみですね。きっと以前より良い成績が残せると信じております。そして例え思うような点数が取れなかったとしても、お嬢様の頑張りがなくなってしまうわけではありません、学んだことは全てお嬢様の中に積み重なっております、それを忘れないでください」
「はい、ありがとうございます、石蕗!これからもはげみます!」
「石蕗はずっと応援しております」
「で、石蕗さんいいお知らせってなんだよ?」
「こちらに大福がもう一つあります」
「それ石蕗のでしょう、嘘はダメです」
「そうです、笹本が一つずつ買ってきたものを避けておりました。これを半分こしましょう。一つには足りませんが。」
「……いいですよ、石蕗だっていつもお仕事頑張ってるじゃありませんか、とっても美味しいんですからその大福!一つ食べなきゃ勿体無いですよ!」
「お嬢様、私はお嬢様と半分こして食べたいのですよ」
「……減っちゃいますよ、半分に」
「2人で食べれば2倍、美味しいですから」
「……うふふ!美味しいお茶を合わせないとですね」
「笹本がもうすぐ帰ってくると思いますよ、ほら」

玄関の方から引き戸の音がした。次いでただいま戻りました、の声。がさがさと大きな買い物の気配。

「お嬢様、試験お疲れ様でした。私の目が届かなかったばかりにの失態でございます、お許しを」
「笹本のせいではないですよ本当に」
「買い出しにでたばかりにこの始末。先ほど熊を狩ってきまして、本日熊鍋にございます」
「豪華ですねぇ……まだ試験結果でてないですよ、試験終わっただけですよ笹本、ちょっと気が早いですよ落第してたらどうしましょう」
「そんな心配する成績してないでしょお嬢、大丈夫だよ」
「その熊から快く譲っていただいた戦利品がこちらに」

そうして広げられたのは、ついさっき目の前で見た生クリーム大福各種、ガトーショコラ、フォンダンショコラとその他色々。

「あの、ひょっとしてさっき狩ってきた熊って」
「人里に降りて来た熊はちゃんと猟友会の決まりに従って捌きますので大丈夫ですよお嬢様」
「や、矢車どのは…」
「さっき博多に向かいましたよ、大丈夫大丈夫」
「この戦利品は我々が熊から譲り受けたものですから、お嬢様は気にせず許さずでいいんですよ……我々も許しておりませんので」
「お嬢、これ別もんだよ、印字の擦れがちょっと違う」
「それ何レベルの違いです!?タイミング!?」
「何にせよ、貴方は気にせずお食べになっていいんですよ」
「次に矢車殿が敷居を跨いだらとっちめますので。我々が」
「いえ矢車殿もお土産買って来てくれますし私のお饅頭食べたりとかしますけどお仕事頑張ってますし」
「一回こりなきゃダメです、彼奴は」
「石抱きの刑に処します」
「焼き鳥食わせます」
「うーん、ほどほどで…ショックは癒えましたので」
それに、と続けるお嬢にさっきまでの憂鬱は見られない。
「みんなで食べるおやつは100倍美味しいので、大丈夫です!」


後日談。

柳谷邸に轟いた悲鳴。それはたっぷり芥子が仕込まれた饅頭を、口一杯に頬張った矢車殿のものでした。

「や、ほら……小腹がへって……一個あるじゃん饅頭が……食べるでしょ……よく見たら普通に注意書きだこれ、読んでたら避けれたのか……いや本当すみません……気をつけます…」

お嬢曰く。「悪い人では、いや悪巧みや悪知恵は働く方ですので注意は要りますけど。悪人では無いです。いい人ですよ。疲れてるとお腹減るのと周りが見えなくなるのが困りものですけど。」
前何も気づかずビー玉飲み込んだりしてましたし。
これくらいのお灸なら、まぁちょうど良い薬と思って。

10/15/2024, 1:55:33 PM