夢見の女子

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私もローシャさんも、あまり風邪をひかない。
ローシャさんは寒い所が嫌いで、冬なら尚更防寒対策を怠らないので、滅多にひかないのだそう。
私は急激な気温変化には弱い方ではあるが反して体は強い方であるので、ローシャさん同様私もひかない方である。

しかし、私はたまに高熱を出してぶっ倒れることがある。とても重い頭痛が元々持っていた偏頭痛と混ざって私の思考を邪魔して、何も考えられなくなる。一番酷かった時は、確か42度以上出していた……と思う。

昔だったら母に看病してもらえばよかった話ではあるが、今となっては立派に一人暮らしをしている高校生である。その上母の住む実家と私が住んでいる家との距離はそこそこ空いているし、母はもう還暦近い立派な高齢者予備軍だ。そんな母に無理をさせる訳にはいかない。

ならそんな時、一体誰に看病してもらったのか。
そう、ローシャさんである。

元々私とローシャさんは、ただのご近所さんという関係でしかなかった。けれど、お互いに通勤・通学で同じ道を通っているうちに自然と仲良くなったのだ。それから紆余曲折あって友達となったわけなのだが……。

「零、大丈夫か」
「あ、ローシャさんだ……」
家にいた私はチャイムの音を聞いて玄関のドアを開ける。ローシャさんがスポーツドリンクや冷えピタが入った袋を持って立っていた。
「一人でも平気か?随分熱が酷いようだが」
「んぁー……たぶん?」
曖昧にしか答えられない。熱で脳が焼き切れそうで、頭がぼやーってして……。
立ち尽くしていると、察したローシャさんが中に入ってドアを閉める。すると私を姫抱きした後、寝室に入ってベッドに寝かせた。
「無理するな。こういう時ほど他人を頼らないでどうする」
叱られた。もしこれを言ったのがローシャさん以外だったら話を聞かなかっただろう。けどローシャさんだから聞く。
「ん……ごめんなさいローシャさん……」
「別に謝る必要はない」
目を細めて見つめられた。

買ってきた冷えピタのフィルムを剥がして、私の額に貼り付ける。ひんやりしてて気持ちがいい……というよりは、あまりにも重すぎた頭痛が少し軽くなった気がして安心した、と言った方が正しい気がする。
冷えピタを貼ってもらった時に気づいたが、彼の手は冷たい。そういえばローシャさんは「何故か俺のデスク周りだけ冷える」と前に愚痴っていた記憶がある。よくよく考えてみれば、一年中タートルネックを来ているような気がしなくもない。多分それは気のせいだと思う。
「粥作ってくる」
ローシャさんが私から離れようとする。待って、と届かなくなる前に手を掴んで離れないようにする。
どうした、と彼は寄ってきてくれる。掴んだ手を自分の頬に寄せる。ひんやりとして気持ちいい。冷えピタなんかよりよっぽど。
「離せ、粥が作れん」
眉をひそめてローシャさんは言う。ローシャさんなら無理やりひっぺがすなり何なりしそうなのにしないということは、意外と満更でもないのだろうか。
……あ、そうだ。ローシャさんを引き止めたのはこれだけじゃなかったんだった。
「ごめんなさいローシャさん、私お粥苦手なんです」
「む、そうか。おじやなら食べられるか?」
「はい……手、離しますね」
名残惜しいけれど、ずっとローシャさんの冷たい手を離す。風邪が治った後にいっぱい握ればいいし。……握らせてくれるかは置いておいて。

「ゆっくり休んでおけ」
最後に私の頭を撫でて、おじやを作りにローシャさんは部屋から出ていった。
(……そういえば、ローシャさんはなんで私の看病をしに来てくれたんだろう)
やっぱり親切心とか?いやでもあの人そういう心持ってるように思えないしなぁ……とか失礼な事を考えていたら、いつの間にか眠りについていた。

それからのことは覚えていないけど、まあ今こうやって生きている訳なので風邪は治っている。
ローシャさんは……相変わらず冷めているけど。

12/17/2023, 6:58:11 AM