風に乗って
そこに風の妖精がいるのかと思った。
美しく風になびく黒髪に、金木犀の香りがした。
はじめて彼女に出会ったとき、そいつは、ただじっと遠くを見つめていた。
最初は女か男かわからなかった。
姿はまさしく女の人だったが、なんとなく、そうだと言い切れなかった。
そいつは俺の視線に気がつけば俺に背を向けた。
次の瞬間、風が強く吹いた。
砂埃が経ち、俺は思わず目を細めてしまった。
ハッと目を開けた時には、もう、そこには誰もいなかった。
俺はどうすることもできずその場に立ち尽くし、揺れる木の葉を眺めた。
俺はまた、その人に会いたく、次の日も、その次の日もその場所に行った。
だが、その人に会うことはできず、そのまま一ヶ月が経ち、半ば諦めていた。
「なぁ、毎日毎日、そこに何かあるのか?」
「会いたい人がいるんだよ。」
「ふぅん
会えたらいいな」
「あぁ。
……。」
ふと風が吹いて、あの時の、柔らかな香りがした。
「…は?」
思わず振り向けば、そこにはあの時の人がいた。
だが___
「え、髪……。」
短い髪が風に遊ばれ、その人の手には小さな花が握られていた。
「あー、邪魔だったから髪は切った。
ずっとここで昼飯食ってたんだけど、最近お前がくるようになったから場所変えたんだよ。」
「なんで俺にそのことを?」
「なんとなく。
お前のこと、別に嫌いじゃない。」
疾風が暴れ、俺と彼女の髪を弄ぶように踊った。
風のように風来坊な彼女は、気分屋で、そして、そのままこの手を掴んでいないとすぐに消え、もう、二度と会えない気がした。
4/29/2026, 2:18:10 PM