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ひなまつり

数十年前は誕生日でもないのにお祝いされるのが嬉しくて歌を歌う女の子がいた。おっきな声で楽しそうに歌っている声を聞いていると年に1回数日の役目でも幸せな気持ちになった。この子の健康と成長を祈るのが私たちの役目だ。

それなのにここ数年は出番もなくて、ずっとじめっとした屋根裏部屋の奥に押しやられている。この家が建った時からいる古参だというのにもう忘れられてしまったのだろうか。
昨年あたりから着物の端を虫に食べられてしまってところどころに穴が空いてきている。

もうここには私たちを必要としている子はいないのだろう。
そろそろこの家にもいられなくなってしまった。出番がなければ私たちはただの人形になってしまう。昨年はこの湿った屋根裏の段ボール箱が再び開かれることを願って眠りについた。

今年はどうだろうか。もう一度外の空気が吸いたい。




3月3日
声がする。視界が明るい。
小さい女の子の歌声が部屋に広がっている。

どうやらもうしばらくはこの家にとどまれそうだ。
微かな桃の花の香りとともに私たちは目を覚ました。

3/3/2024, 11:31:37 PM