ティム

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ジジジジ、ジジ

奇妙な音で目を覚ます。枕元のメガネを乱暴に掴み取り、慣れた手つきで付ける。ようやく目の焦点が合い、俺は言葉を失った。

「て、がみ……?」

音の主は今まさに空中に現れつつある手紙だった。子気味好い音を立てながら、宙に生成されるかのような手紙はあまりに非現実的で、寝起きの頭では処理しきれなかった。

ややあって手紙は出現しきると、ぽとりと呆気なく布団の上に落ちる。俺は躊躇いながらもその手紙を手に取ってみた。

手紙の封筒にはこう書いてあった。

『大っ嫌いな私へ
                10年後の私より』

その宛名と差出人を読み、意味を理解した瞬間、俺はビリビリにその手紙を破いた。

「くそっ!!! 趣味悪すぎるだろ!!」

破いた手紙をゴミ箱に叩き込むと、気分直しに煙草を口にくわえた。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「そういやお前、10年前の自分に転送した手紙、何書いたんだ?」

研究室の同僚が椅子にもたれ掛かりながら、顔だけこちらに向けて私に尋ねる。
俺はパソコンの画面を見ながら答える。

「何も。中は白紙だよ」

「なんだそれ。意味ないじゃんか。お前、昔の自分に嫌がらせするとか言ってなかったっけ?」

「よく覚えてたな。そうだよ、嫌がらせしてきた。私が一番嫌いなこと、覚えてるか?」

「ネタバレ、だろ? でもそれがどう関係あるんだ?」

私はパソコンにデータを入力する手を止め、椅子を回転させて同僚に向き直る。

「私がしたのは未来のネタバレさ。10年後、世界は過去に物を送れるまでに科学を発展させてますよって」

同僚は数秒ぽかんと口を開けた後、大きな声で笑い始めた。

「そいつは最高のネタバレだな! これで過去のお前は新しい科学技術が生まれても何一つ心躍ることはなくなった! なにせ知ってる10年後への1歩でしかないんだからな!」

「だろ? 我ながら良いアイデアだと思ってる」

あの頃の私のことは大っ嫌いなんだ。せいぜい苦しんでくれ。

2/15/2023, 8:51:26 PM