「どうしたの?」
伝えたいことが上手く言葉に出来ずに居ると、この男はいつもこうして俺の顔を覗き込んでくる。それから、自分の一回りほども大きな身体の中に閉じ込められるように、ぎゅうと優しく抱き締められ、ふわりと目が細められたかと思えば、甘えているような穏やかな声で名前を呼ばれた。
その瞬間。ああ、俺はこの男に好意を抱いて居るんだと自覚させられるのだ。
ちゅっ
すると、軽くリップ音を立てながら触れるだけのキスをされた。久方ぶりのくちびるの感触に、思考がふわふわと蕩けてしまう。
ココ最近、ずっと眠れていなかったせいか、そのくちびるが触れる心地良さにまぶたが少し重くなってくる。
「……ん、もしかして、さみしかった?」
そう言いながら、何度もくちびるをふにっと押し付けてくるこの男に、幾度となく触れてくるやわらかい感触を受け入れつつ、心の中では『さみしかった』という問いに対して、『ちげえ』と否定の言葉を並べる。
さみしかったわけじゃない。ただ、ほんの少しだけ、ベッドの中が寒く、背中が冷たい気がして、寝づらかっただけの話だ。
「別に……。ただ……眠れなかっただけだ」
「うん、そっか。じゃあ、今日はここで一緒に寝る?」
そこで『一緒に寝たい』と素直に言えたなら、そもそも俺はお前の部屋には来ていないというのに。
言葉で伝えられたなら、どんなに楽だったか。
返事の代わりに、今度は俺の方からキスを仕掛ける。それに驚いたのか、少し目を丸くした目の前の男に気分が良くなった。しかしながら、触れるだけのバードキスでこの男が満足するはずもなく、いつの間にかスイッチの入った目の前のケモノに、あっという間にくちびるを奪われてしまえば、いつか言葉でこの気持ちを伝えてみたいと思わずには居られなかった。
2/12/2024, 1:39:56 PM