孤月

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恋でも愛でもない、性欲、それだけ。

最初の印象は最悪だった。
メッセージは下ネタのオンパレード。
私も真面目に相手する気になれなくて、
気の強い女を演じた。

「俺のこと知ってから去って」
しかしこの一言に何故か興味を惹かれて、私は最悪へ飛び込んだ。

メッセージのやりとりを始めて、すぐに週末に会おうと誘われた。
経験が浅い私は、「経験豊富」という言葉に弱かった。
身体目的でも、経験を積めるならそれでいいかと割り切ったつもりで会うことを決めた。

身体目的なのに、メッセージでは意外と色々聞かれた。
私も相手の自信の源が気になって、少しずつ知ろうとした。嘘かもしれないけど、彼の言葉には確かな自信があった。

だんだんと感じ始めた。
この人は、恋人っぽいことも無料でできる性欲処理道具を求めているんじゃないかって。
私も、自分が割り切れる範囲で、その要望に応えようと思った。お金のやりとりがある関係にはなりたくなかった。

「やっぱり明日会えない?」
次の日、そんなメッセージが来た。

私は覚悟を決めた。
今の私には、誰かの性欲処理道具になるくらいしか価値がない。
だったら身体を許すくらい、何ともないと思えた。
お互い性欲を満たすためだけに楽しめば、何も悪くない。
そう、自分に言い聞かせた。

当日、車に乗ってしばらくすると、やはりホテル街をぐるぐるし始めた。
「暗くなってきたね、どこ行く?」
そわそわした声がわかりやすかった。

もう言ってしまえばいいのに。
「ホテル行きたいですか?」
私はムードも何も無視して、直球で誘った。

これで逃げ道はなくなった。
相手ももちろん乗ってきた。

ホテルに入れば、やることはひとつ。
密室。逃げられない。断る理由もない。
好きでもない、初めて会った相手に身体を許した。

私の中で、大事にしていたものが崩れていく音がした。
でも、もう、それでよかった。
そう思いたかった。

今も印象は最悪だ。
向こうもきっと、私のことを良い印象とは思っていない。ただの、都合の良い存在。
お互い相手の求めることに、ただできる範囲で応え合うだけ。

でも、性欲だけじゃない、
たまに垣間見える“表の顔”を知ってしまうと、どこかに情が入る。

これから私を、もっと壊してくれるだろうか。
私は、相手のために、どこまで応えればいいのだろう。

性欲、それだけ。
……のはずだったのに。

6/5/2025, 8:31:27 AM