テリー

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「逃げないもんですね、存外」
天窓が一つ設けられた部屋で少女が蹲っている。歩けない様に板状の足枷がつけられている。
背に生えた翼が”それ”が普通では無いと物語っていた。
「あんな立派なもんつけといて、窓から逃げようと思わないもんですかね」
そう不思議がる監視員に、画面越しに問診していた男は答えた。
「いいや。アレは…”アルバトロス”と同じさ」
「アルバトロス?…ってなんですか?」
問診票にチェックを入れながら彼は質問に答えた。
「アホウドリのことだ」
「ぷっ……あはは!ドクター天馬、結構毒舌ですね!まぁアホウってのも頷けますね。逃げ道があるってのに、ぼんやり空を眺めて終わりだなんて」
その言葉を聞きながら、天馬は苦い顔をした。
—馬鹿者め、そういう意味じゃない。
アルバトロスは滑走して助走を付けなければ飛び立てない。彼女も同じだ。だから走れないよう枷をつけているのだ。
我々”人”がそうしているのだ。だから彼女は諦めている。
(もし、私が創造主ならば、翼だけで飛び立てるように設計しただろう)
ともすればこんな人型にすらしなかっただろう。神は何を血迷って、人の背に翼を生やそうと思ったのか。
「……哀れだ」
そう呟き天馬は問診を終え、その場を後にした。
人の姿をしていなければ、親しみから興味を持たれ閉じ込められることも無かったろうに。人が”アホウ”でなければ、こんな研究対象にすらならなかっただろうに。
廊下の天窓から降り注ぐ光を避けながら、天馬は臍を噛んだ。

≪飛べない翼≫

11/12/2024, 2:38:40 AM