友だちの思い出(永遠の絆)
わたくしの婚姻が決まり嫁ぐ日が近くなった頃、彼女と最後に別邸でお茶会をした。
嫁ぎ先は家訓が厳しく、気軽に友人に会うどころか里帰りもできない家柄だったので、わたしはもう実質これで縁が切れてしまうのを覚悟していた。
「良い縁談に恵まれて羨ましいわ。誰よりも大切にされて幸せにならないとね」
「………確かに親同士が決めたにしては、お相手もわたくしも互いに気が合って長く良い関係を築いていけそうではあるけれど。それでも不満だわ、恋だの愛だのも知らぬまま道を決められて」
………わたくしがそれらに覚醒めぬうちに、しっかりとレールを引かれてしまった。
お相手に対して悪い印象がない以上、面目上断るのも憚られ、家の為に承諾したわたくしは馬鹿だろうか。
もっと抵抗すればよかっただろうか?
………わたくしの為だと豪語して大義名分を振り翳した親の勝ちは明白だった。
「惚れた腫れたは一時の幻とも言うから、一概に悪い選択とは言えないでしょう。見合いも恋愛も紙一重。どう転ぶかは生活してみないことには」
「………ええそうね。その中で想いを育むよう、努力するわ」
―――それが定めならば、定めの中で最上級の選択をしていくまで。
わたくしは残り少なくなった彼女のカップに、紅茶を継ぎ足した。
「もしこれ以上は無理だと判断したら、わたくしはさっさと荷物を纏めて戻るつもりよ」
「………。今から不謹慎な。貴方は幸せになるわ、きっとね」
これが貴方との最後の会話になるというのなら。
わたしが幸福にしかならない、解けない魔法をかけておく。
どこへ行こうと何をしていようと、たとえ世間が貴方を欺いたとしても。
貴方の存在をずっと、わたしは心に留めておく。
「………やっと会えたわね」
わたくしが誰かわかる?
棺に手を伸ばし、一回り小さくなった彼女の頬にそっと触れてみる。
幸せそうに綺麗に収まる彼女がどんな人生を歩んだか―――向こうで弾む話を聞ける日も、もうそう遠くはない。
………またあの日のようにお茶会をしましょう。
幸福にしかならない、解けない魔法が効いたかどうか―――
日の当たる庭で。
二人で、答え合わせをしましょう。
END.
7/7/2024, 2:26:31 AM