わをん

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『嵐が来ようとも』

台風が近づきつつある我が家から外に出せと吠える犬が一匹。
お外危ないよ、と宥めても雨ひどいから明日ね、とすかしてもごはんの次に散歩が好きな柴犬3才は外に出たいと言って聞かない。正直、合羽を着込んでもずぶ濡れになることが決定的で、愛犬から犬ドリルを食らいながらの犬洗いコースも確定する散歩に繰り出す元気が我が家の雨戸閉めや植木鉢の収納で気力が削られた今は全然湧いてこない。誰か私の代わりに行ってくれる猛者はいないだろうか。
「俺が行く」
夏休み入りしている息子が玄関口に勇ましく立っていた。しかしその出で立ちはTシャツにハーフパンツ。
「そんな装備で大丈夫か」
「大丈夫だ、問題ない」
安全面も雨対策も全然大丈夫ではないけれどそう返した息子ははしゃぐ犬にリードを取り付けると玄関を開けて風雨の舞う中を颯爽と走り出していった。その背中を眩しく思い少し涙ぐみながら給湯器の風呂張りボタンをオンにする。
「無事に帰ってくるのじゃぞ……」
変わり果てた息子と充足感に満ちた愛犬が帰ってくるまでにやることはまだ残っている。萎えつつある気力を振り絞った私は大量のタオルを用意するためにまた立ち上がった。

7/30/2024, 12:24:11 AM