透明な涙
彼の涙は、まさにそう呼べる、そう呼ぶべきであるものだった。涙は、普通透明だ。だから、この感想はおかしなものなのだけれど、「透明な涙」というのは、これ以上ないほどそれによくあっていると感じた。
—「好きです。」
こんな言葉を生きているうちに聞くとは、まるで思わなかった。だって、特別恵まれた見た目も、性格も、好かれるような何かも、自分は何一つ持ち合わせていないと思っていたから。
それでも、顔を真っ赤にして、でもしっかりと目に強い意志を湛えてこちらを仰ぎ見る彼からは、素っ気なく突き放すことも出来ないような真剣さを読み取れた。
でも、どうして?
さっき言ったように、とりたてて何かある訳でもない自分に、告白してくるような人がいるとは。今まで全く縁のなかった出来事に、困惑してしまう。どう返事をしたら良いものか。正直なところ、彼に恋愛的に好意を抱いていたかと問われれば、答えはノーだ。でも、きっと勇気を出してきてくれたであろう彼に優しい言葉をかけたいのだが、上手な断り方が見つからない。
どれくらいだったか、思いの外長い間思案してしまった。慌てて彼の方を見ると、まだそこにいた。何も言わず待たせてしまったのに関わらず静かに待っているとは健気な人だと思っていると、ふと彼の目元が光ったように見えた。
彼は、泣いていた。
もしかしたら、悩んでいるところが、自分が告白して不快に感じているように見えたのかもしれない。それでもじっと耐えてそこに佇んでいる彼。
人から好意を向けられて、嬉しくない人はいるだろうか。ソースは、自分しかないが。
この短い時間で彼に少し情が湧いてしまった。これが、彼からしたらはた迷惑でそんなことをするくらいなら、期待をさせるくらいならいっそしっかりと断ったほうがいいのもわかっている。
でも、もう少しだけ、強く、きれいな彼を見ていたいと思った。思ってしまった。
ありきたりかもしれないが、ハンカチを取り出した。
でもその先は、ちゃんと、自分の手でさせてもらった。
1/18/2025, 1:07:50 AM