黒く萎れていた花が、鮮やかな紺色を取り戻していく。
背面に窓と書かれたカードの中で繰り広げられる再生の姿に、白い詰め襟の女と黒い山高帽を被る男は、安堵の息をついた。
「ロストチャイルドが、還っていったわね」
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夜の海に潮騒が響く。
ここは、思考の海の浜辺。
いつ訪れても夜の海が広がる景色の中で、二つの影が寄り添っていた。
影の一つ、白い詰め襟の女──初代は、やわらかな笑みを浮かべ、手元のカードに慈愛の目を向けた。
「随分、長い物語だったな…」
黒い山高帽の男──思考の海の番人は、静かに呟いた。
二人の間にあるカードの中では、紺色の花が風に揺れている。
「…本望、ですって」
紺色の花に還っていった彼女が残した最期の言葉だ。
やわらかな笑みを浮かべながら紺色のスカートを翻し、嬉しそうにそう言っていた。
「そうだろうな。何せ、彼女が…」
「…それを言うのは、野暮よ」
番人の言葉を遮った初代は、紺色の花が映るカードをそっと空にかざした。
「…助けてくれる大人が周りにいたのに、笑顔の仮面でそれを退けてしまった──」
彼女の過去。
「迷惑になるからと、人を頼ることが出来なかった──」
彼女が選べなかった選択肢。
「それを許してくれる人が現れるなんて──」
初代はカードを掲げながら、はらはらと涙を零した。
涙で震える肩を、思考の海の番人は優しく抱きしめた。
「癒されることは無いと諦めていたのに…運命とは、とんでもないものだ…」
思考の海の番人の言葉に初代は、何度も頷いた。
「ロストチャイルドは、みんな還っていった。俺たちに出来ることをしよう」
初代は涙を拭くと、紺色の花が映るカードをクルリとまわした。
カードの中の紺色の花が揺れ、背面の「窓」の文字も消えていく。
クルクルと回るたびに紺色がカードに広がっていく。
裏も表も全て紺に染まっていくその中で、金の花模様が生まれ、美しい輝きを放つ──美しいカードが生まれた。
「さぁ、いきましょう」
目元にやわらかな光をたたえながら、
初代は優しく微笑んだ。
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窓から見える景色
9/25/2024, 2:02:00 PM