ちぐ。

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あの夜のことを、私はまだ鮮明に覚えている。
人混みを避けてたどり着いた裏通りの片隅で
あなたは黙ってうつむいていた。

言葉をかけるよりも先に頬を濡らす涙の線が
私の心を突き刺した。

私は迷わず、その肩を抱きしめた。
震える背中が、あまりにも頼りなく、守らなければ壊れてしまいそうで。あなたの痛みを少しでも引き受けたいと、必死だった。

けれど今、隣に立っているのは私じゃない。
あの日、あなたを支えたのは私だったのに、微笑むあなたの視線はもう別の誰かに注がれている。

「泣いてた貴方を抱きしめたのは私なのに――」
心の奥で、何度も繰り返す。
それでも声にはできない。あなたが幸せそうに笑っているから。

私はただ、その笑顔を遠くから見つめる役に変わってしまった。

8/22/2025, 5:52:24 PM