はた織

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 中国の説話だったことは覚えている。石の穴が、風を鳴らし、また穴の大きさごとに音色を変えていく。
 人間の耳の穴もこれと同じだ。風が吹いてようやく音を聞くことができる。聞こえ方も多種多様だ。
 だから、自分の耳にしか聞こえない風の音を聞きたいのに、周囲がやたらとうるさい。痰を吐く豚とキルケの脱糞音と香水の匂いしかない空気と孤独を恐れて忘れた寂しい者たちが、私を取り囲んで騒いでいる。実に耳障りだ。
 風と一緒にどこかに飛んで行ってくれないか。遠くに飛んで行った音を私ひとりで聞いてあげるからさ。
                   (250501 風と)

5/1/2025, 12:36:52 PM