終点(恋の行方は定まらず)
未だに下がる気配を見せない、最高気温が限界突破している真昼の夏休み。
もう以下略で済ませたい定番となった、年の離れた双子姉妹のお世話係も板についてきた今日このごろ―――彼女らの目下のお気に入りは電車ごっこだった。
「電車がとおりまーす」
「まーす」
いっちょ前に踏切だ停止線だと、正確さに厳しいごっこ遊びを展開させる心意気だけは買ってやるが、当然の如く巻き込まれる俺はどうにかならんのかと心底思ってしまう。
「にいに乗って」
「乗って」
ハイハイ、ととりあえず素直に従ってはおく。
ついこの間、縄跳びだのスケボーだの炎天下で付き合わされた挙げ句、体調不良で激しい頭痛と目眩に襲われたのはまだ記憶に新しい。それに比べたら涼しい部屋で電車ごっこなんて、可愛いものだ。
いや、それより何より、あまり邪険にすると意中の彼女に何を吹き込まれるかわかったもんじゃない。
好感度を上げるまではいかなくとも、下げる発言をされる可能性は限りなく低くしておかねばならなかった。
「「終点でーす! ご利用ありがとーございましたー!」」
「おう。終わりだな? 終点だもんな」
俺は毛糸で作った電車の囲いを素早く抜け出そうとするが、
「ダメでーす! この電車はただいまよりおりかえしまーす!」
「まーす!」
………。敵のいない無限列車ですか?
俺は溜息をつきながら、まあ幼稚園児のお遊びだからそうなるわなと諦めてもう一度二人の間に挟まれつつ、部屋の中を闊歩する。
………けど、こうしてる間に夏休みも後少し。
双子の世話に明け暮れるのももう僅か、休みが明ければまた彼女に会える。
―――そんなことを考えていると、ふと立ち止まった二人の視線を感じて俺は顔を上げた。
「何だよ、遊んでんだろ」
文句あるのか?と少々圧をかける。
「花火のとき女の子とお話したけど、優しいお兄ちゃんでいいねって言われた」
「うん、だから、おねーさんカノジョになってみる?って言った」
「え………はぁっ!?!?」
花火の時に!? 何だそれ!いつの間にそんな、
「―――それで………、何て言ってた?」
―――俺はごくりと喉を鳴らす。
「「笑ってた」」
笑って………た?
それは一体どういう意味で………?
あの時の彼女を振り返ってみるが、あまりの可愛さに目を奪われていたことしか思い出せない。
双子のマセた発言に引いてないといいんだが………。
―――まあ、それでも。
「………。で。例の如くご所望はビエネッタでよろしいか?」
「「やったー!!」」
にいに、わたしたちいいしごとしたでしょ。
―――双子の絶妙な立ち回りにナイスと思うものの、こいつらを敵に回したらどうなるんだ………と、彼は内心早熟すぎる双子の成長を少しばかり憂うのだった。
END.
8/11/2024, 7:27:14 AM