雪だるま

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 私は幼い頃から夕焼けが怖かった。理由はわからないが、真っ赤に染まった空を見ると、それだけで体が硬直し動けなくなった。そのせいか、その頃から私の心は常に緊張し、同時に疲弊していた。何をするにも情熱を持てず、派遣社員として無為に仕事をするだけのつまらない大人になった。その日も終業時間まで誰とも話さず定時にタイムカードを切った。
 私は得体の知れない何かに怯え続ける人生に疲れきっていた。私は死ぬつもりで、一人会社の屋上にいた。建物の端に両足を揃えて立ち、下を覗き込むと、はるか下に道路が見えた。その瞬間、私は全てを思い出した。

 それは私がまだ小学校に上がったばかりの頃。その時私は一人で学校からの帰りを急いでいた。夕暮れ時、空は血のように真っ赤だった。古い巨大な団地の前まで来たとき、足早に歩く私の目の前になにかが落ちてきた。人間だった。私の視界は、団地の屋上から飛び降りた男の血と空にかかる夕焼けで真っ赤に染まった。

 ……。
 なんだ。そうだったのか。私はたった一人のろくでもない欲望のために、これまでの人生を台無しにされてきたのか。そう思ったら、全てが馬鹿馬鹿しくなった。私は死ぬのをやめた。自分のためにこれからの人生を生きようと思った。屋上から見る夕方の空は赤く染まっていたが、もう怖くはなかった。

(落下)

6/19/2023, 3:26:24 AM