白眼野 りゅー

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「はあ……」

 僕は悩んでいる。ご飯も喉を通らないほど思い詰めている。

 高い位置にある太陽を見上げる。

「なあに、夏バテ?」
「そんなんじゃないけど……」
「ふうん……」

 ちらり、君は僕を見て、言った。

「暇なら、うち来なよ。君の憂鬱を吹っ飛ばしてあげる」


【星を呼び寄せて追いかけて】


「これ……」

 言葉を失う。君の家に着くや否や、庭に誘導された。素直にそちらに向かった僕の目に飛び込んできたのは……。

「ビニールプール……?」
「懐かしいでしょ」

 懐かしいというか、子供っぽい。僕たち、もう高校生だよ?

「ねえ」

 プールに水を張るためだろう、ホースを右手に持った君が、僕の方を向く。

「太陽を落とす方法、知ってる?」
「へ?」

 急な質問。意味が分からず、首を捻る。

「えいっ!」

 ぱちゃん、綺麗な放物線を描いて、ホースから水が飛び出す。子供用の小さなプールはあっという間に満たされていく。

「……ほら、落ちてきた」

 揺らめく水面。その中心は、太陽の光を抱え込んだみたいにびかびか輝く。

「何それ、とんち?」
「元気になった?」
「子供用のプールで?」

 僕もずいぶん舐められたものだ、と思う。

「あちゃー、失敗か」
「逆になんで成功すると思ったの」
「んー……。空を見上げてため息なんてついてたから、太陽に恋でもしたのかと思って」
「何そのトンデモ妄想」
「だから、思ってるより簡単に届くよって教えてあげたくて」
「……」

 蝉の声。水面の太陽が、幻みたいにゆらゆら揺れる。

 地面を蹴った。どぱん、と派手な音。入れたばかりの水がプールから溢れる。

「え、ちょっと、着替えてからの方がいいんじゃない?」
「もう遅いよ!」

 あんなに灼熱の色で燃えていた水は、肌に心地良い冷たさだった。腕を持ち上げれば、指の隙間から太陽色の水が零れる。

 こんな的外れな慰めをされるくらいなら、夏バテってことにでもしておけばよかったな。なんて思ってみるが、口許は無意識に緩んでいた。

「……じゃあ、私も!」
「え?」

 どぱん、僕の太陽が、僕を追いかけて飛び込んできた。

7/22/2025, 3:49:02 AM