世界のどこかで、汽車が走っている。
夕暮れに、オレンジ色の雲とピンク色の雲の間をさいて
闇のかけらを連れてくる。
海の上を通り、空に向かって進んでゆく。
汽車には人が乗っていない。
運転席にさえ誰もおらず、
ただ静寂が空間を満たしている。
夕日が差して床に窓を映し、席だけがそれを
眺めている。
汽車の後ろ、外に出れる部分には一人の少女が立ってい
た。肩にかかるほどの黒髪が揺れて顔に触れる。
少女は、もう長い間一人で、空を見つめている。
肩にかかるほどの黒髪が揺れて顔に触れる。
一人でいても寂しくも、悲しくもない。
嫌なことがない代わり、もう救われることもないけれど
少女が望んだことだから。
たまに、少女も想い出を振り返ることがある。
嫌なことと一緒にに振り捨ててきたいろんなものを。
もう戻れないと知っていても、戻りたくなる。
そんなときは、汽車が汽笛を鳴らすのだ。
少女の孤独に共鳴して深く深く響かせる。
少女は再び立ち上がって、また空を見つめ始める。
昔、一人の少女が死ぬ前に願ったこと。
汽車と少女は、空に向かって永遠の旅を続けている。
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「天球を回る汽車」
終わらせないで
11/29/2023, 5:55:53 AM