『紙飛行機』なんてものがある。
どこまでも飛んでいく、なんてのは言い難いけど、ある程度は風に乗って飛んでいく。
普通のごく一般的な折り方ならせいぜい飛んでも数メートルいくかいかないかくらいかもしれないけど、もしすっごく頑張ってめちゃくちゃ飛ぶ折り方をしたら、めちゃくちゃ飛んでいくかもしれない。
今日会った迷い子の話はそんな感じだった。
その子も他の皆の例に漏れず演奏者くんに心を動かされて元の世界に帰ってしまったけど、ボクにとってはその話が少しだけ心に残ったのだ。
多分、ないのだろう。はちゃめちゃに飛ぶ紙飛行機なんて。遠くても十メートル行ったらとても良い方なんじゃないかってボクは思う。
でも、夢がある。
そう思っているうちは、そうかもしれないと思い込んでいるうちは、それに向かって努力ができる。
いいな、綺麗だなと思った。
思ってしまったからボクは、あの迷い子に一回しか合わなかった。なるべくあの子にとってここの世界が良くない場所に見えるように振舞ってしまった。
だってボクがあの子をこの世界の住人にしてしまったら、あの子の夢はなくなってしまう。
消えてなくなって、もう二度とあの子が努力する術すらもなくなってしまう。
そんなことをしたくない。でも住人になる洗脳をボクがする限り、失われない選択肢なんてどこにもないから。だからボクはあの子に接触しなかった。
いつか、いつか、あの子が折ったはちゃめちゃに飛ぶ紙飛行機が、遠くの空へ飛んでいくところが見てみたい、なんて叶わぬ願いを思いながら、ボクはあの子が元の場所に帰るために奏でられるはなむけの演奏を聴いていた。
4/12/2024, 3:29:04 PM