白井墓守

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『木枯らし』

木枯らしが吹いている。
あ、また人が死んだ。

○○○

「木枯らしってさ、何なんだろうね」
「それは! 今! する事なのかっ!!?」
「んー? あ、また一人死んでった」

木枯らし。というものを、ご存知だろうか。
僕は木枯らし。というものを知っている“つもり”だった。それは本当に“つもり”だったのかもしれない。
だって、知らない。僕はこんな、人間一人を巻き込んで吹き飛ばし、幼児が飛ばしたケチャップみたいにする、特大の木枯らしを。

いつもの朝の通学路だった。
学校に行くために僕らは、おはようを言い合って、それから……ふと隣をすれ違ったサラリーマンが木枯らしに吹かれて――死んだ。
そこから世界が一変した。
世界の法則がまるでグルリと変わってしまったみたいに。

「あ、僕も死ぬかも……」
「おいい!!! ボーっと立つな! 諦めるな! 生を!!」

木枯らしが自分に向かってくるのに気がついて、この世を旅立つ辞句でも考えるかと思ってた僕に対して、僕よりも小柄な背が割り込んでくる。
必死に掴んだ廃材の看板を腕をプルプルと振るわせながら、どうにか木枯らしに耐えようと、額から汗が零れ、息を粗げている。

「大丈夫? 死にそうだよ? 君」
「誰のせいだ! 誰の!!」
「まあ、こんなに怒るほど元気なら大丈夫か」
「 ーーーー!!!」

声にならない怒りが顔面に露出し、般若のような顔が僕をメデューサの如く睨みつける。
もしも視線に物理的ダメージがあったなら、僕は木枯らしよりも憤怒の目力で死んでいただろう気迫だった。

僕は軽く学生カバンをまさぐり一つの“モノ”を取り出した。

「ほら、ちょっとどいて」
「は???」

僕は吹き荒れる木枯らしに対して、軽くスプレーをプッシュした。気持ちは、寝癖を直すヘアスプレーの感覚。
すると、木枯らしは先程までの荒々しさを落ち着かせ、ご飯を食べて満腹になった猫のように可愛らしいものになる。

「おい。なんだ、それ。木枯らしが……落ち着いた?」

僕は無言で彼にスプレーを差し出す。

「静電気対策スプレー……木枯らしにも効果あります。はぁ!? なんだ、これは!!?」
「なにもどうも、今日の天気予報見なかったの? ほら、木枯らしがバージョンアップされたので、忘れずに木枯らしにも効果のある静電気対策スプレーを持ち歩きましょうってニュースキャスターのお天気お姉さんが言ってたじゃん」
「なんだそれは! 雨が降るから傘を持てじゃないんだぞ!?」
「昨日の常識が、今日も常識であるとは限らない良い例だね。世界は刻一刻と変わっていくんだ。僕たちも慢心せずに、日々変わっていかなくちゃね」

そういって僕はウインクをしてみせた。
幼馴染みである彼は、丸坊主にした頭を手でごしごしと撫でるようにかきむしると、苦虫を噛み潰したような顔で口を開いた。

「俺も、これからは……朝の天気予報を見るようにする」

その言葉に、僕はお腹を抱えて目尻に涙を浮かばせるほど笑った。
……まあ、この嘘なんだけどね。
この木枯らし作ったの僕だし、そんな世界トンデモニュースとか、どこの局もやってないって。


おわり

1/18/2026, 3:40:03 AM