ミミッキュ

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"どうすればいいの?"

「はぁ…」
──こいつの事、マジでどうすっか…。
 昼休憩中、居室で子猫のご飯を用意しながらため息を吐く。
 トイレは数日で覚えられたし、鳴き癖も初めはあんなに鳴いていたのに鳴く事が少なくなってきた。が、本格的に里親探しをするにはまだ駄目だ。
 頻度は減ってきたが、未だに机の上に乗ってくるから。
 トイレがすぐに覚えられたのも、鳴き癖も、獣医のアドバイスのおかげ。夜間救急に連れて行った時ついでに聞いておいた。理由は、飼育に苦戦するのはトイレの覚えさせ方だ、と前に聞いた事があったからなのと、拾ってからずっと変わらず、何度も鳴いていたから。
 けれど獣医からは『貴方に凄く懐いている様子なので、このままこの子の面倒を貴方が見てあげて』なんて言われた。
 ケージの扉を開けて「ほらよ」とご飯を入れた皿を定位置に置くと、ブランケットの上に丸くなっていた子猫は待ってましたと言わんばかりに皿の前に陣取って食べ始めた。うみゃうみゃと声を上げながら咀嚼している。
「鳴きながら食べてる……」
 いつもの事だが毎度驚く。拾って数日は空腹で思わず鳴きながら食べているのかと思っていたが、鳴きながら食べる日数がこうも続くと、ただの空腹ではないと分かった。
──こいつ思ったよりも食いしん坊なのか?
 里親は今の内にある程度絞ってから探すのが、一番確実に見つかる方法だ。と、思ってあたってみたが全員に、要約すると『俺に凄く懐いてるんだから俺が世話しろ』だと。
 うちは短期的に見ると平気だが、長期的に見ると難しい。
 ここは医療機器や治療に使う道具がある。医療機器は精密機械だ。子猫が遊んでぶつかってしまったら、故障してしまうかもしれないし、多少頑丈に作られていたりするから、ぶつかった箇所によっては子猫自身も怪我をしてしまうかもしれない。治療に使う道具の中には、包帯を裁断するのに使う裁ち鋏もそうだが、家庭のものよりも鋭利な刃物だってある。
 それに、元々ここはそれなりに大きい病院だったのだ。今まで使ったフロアはとても少ないし使うフロアを広げてもいない。けれど、子猫の身体能力を鑑みて、俺が行ったことのない部屋まで軽々と向かってしまうだろう。俺が言ったことのない部屋、つまり…数年間まともに掃除がされていない部屋。そんな所にこいつを入れる訳にはいかない。
 けれどそれは、行ってほしくない場所に柵を設置するなどの対策をすれば解決だ。
 だが一番懸念している問題は、建物自体の保温性。子猫はまだ体温調節が上手く出来ない。ここに来るのは体温調節ができる人間。勿論子どもも来る事はあるが、多少はできる程に成長している。俺がクーラーやストーブをつけたり窓を開けたりと、要望に答えながら室内温度をある程度調整している為人間は平気だが、ここに来る子どもよりも体温調節ができない子猫をここに置いておくだなんて、とてもじゃないができない。
 俺だって、ずっと一緒にいてやれる事は難しい。用事や買い出しなどでここを空ける事だってある。留守番を任せるにしても、最低でもあと数ヶ月はまだ一人にはできない。
──けれど、獣医もあいつらも同じ事言ってきたし…。もう俺にあてなんてねぇよ…。
「はぁー…」
 先程よりも大きなため息を吐きながら頬杖を着く。
──まぁ…とりあえず様子見で面倒見るか…。それで無理だと判断したら、改めてあいつらに持ちかけてみよう。もう一度聞いても駄目だったら、あの獣医に誰か紹介してもらうってのも手か…。けどなぁ…。一度あぁ言われてるわけだし…。俺がいくら様子見で面倒見た所で、帰ってくる答えは一緒だろうし…。そりゃあ、飼ってやりたい、けど…でも…。
「うぅ〜…」
 頭を抱えながら自分もお昼を食べようと、自分の昼ご飯を取りに居室を出た。
 俺がこんなに悩んでいるというのに、そんな事などお構い無しに美味そうにご飯を食べ続ける子猫を横目に見ながら。

11/21/2023, 1:20:20 PM