いしか

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不完全な僕は、今日もまた、皆より多く練習をする。練習をするために僕は昼ご飯を早く切り上げ一目散に校庭へと向かっていく。

「よし、今日はティーバッティングだ」
大きなネットを目の前に置き、ボールを置く用のポールを立てる。野球部に所属している僕は、誰よりも練習しなければならない。
僕は、一日でも早く、それなりにならなければ…。

僕の所属している野球部は毎年県大会ではベスト8に残る力を持っているチームだ。
僕は小学生の頃から野球をしているが、才能がないのか、センスが無いのか、周りの様に上手になるのに時間がかかる。
いつまでも不完全。だからベンチ外。そんな僕の目標は、ベンチ入りメンバーに入ることだ。

「直親(なおちか)!今日もやるのか?」
「うん。やるよ。護(まもる)君」

彼は林葉 護(はやしば まもる)同級生で、一年生のときからキャッチャーのレギュラーでバッティングも上手だ。
でも、決してそれを鼻にかけないし、努力もする。何だが、キラキラしている。そんな護君に、僕は少し嫉妬している。

「…、護君…良いの?ここに居て?」
「?うん。別に大丈夫。昼休みに予定なんてないし。俺は直親の練習に勝手に付き合いたいから付き合わせてもらってるだけ」

「……護君は、嫌じゃないの?下手な僕の相手して…。」
「…なんで?嫌じゃないよ。それに、直親はちゃんと練習した分、上手くなってるよ!
ほんと、すげーよ、」

護君は、どうしてこんなことを言ってくれるのだろう。自分だって努力してるのに。上手いのに。何で僕の事を褒めるの?

「……よくさ、直親言ってるだろ?僕は野球の実力は不完全で、誰よりも練習しなきゃいけないんだって、でも、それは違うよ。」

「誰だって不完全だ。皆、俺も、不完全だ
もしかしたら、一生不完全なままかもな、」

「だから、直親はもう少し自信を持ったらいいよ。そうしたら、今の直親の力を、もっと押し上げてくれるはず。俺は、誰よりも直親が練習してたの見てるから…、」

「……自信?僕が、自信をもう少し持つ?」
「…そう。もう少し自信を持つの。そうしたら、きっと大丈夫。不完全だって、いいじゃん。直親は、野球、上手くなってるよ。ちゃんと。」

この時、護君が言った言葉を僕は半信半疑で受け取った。
けれど、そんな僕が少し自信を僕は持ってプレーし始めたら、その次の夏にはミラクルが起こることを、この時の僕は、まだ知らないのだった。

8/31/2023, 10:33:52 AM