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「ご飯できました!」
快活な声で敷布団から引きずり出される。短く切りそろえた黒髪が朝の陽光に水面のように光る。俺にしては上手く手入れできていると思う。美術の成績が振るわなかった人間としては上等だ。
「今起きる……」
「はい!」
「先行ってて」
「“にどね”を見張ってます」
ムッとした顔で言う。
「……わかった、起きるよ」

座布団と朝食が几帳面に狭い机周辺に整理されている。
「いただきます」
「どうぞ!」
少女は自分の分はさっさと食べ終えてしまったらしく、テレビに視線を移している。レンタルショップで借りたDVDのうさぎが手を振っている。地上波放送はずっと前から見せていない。ニュースを見せるから。
「散歩したいか?」
「……? 別に大丈夫です」
「……じゃあ映画は? 見たがってただろ? プリンクラーみたいなの」
「プリキュアですか!?」
行きたいです、と笑う。ああ、良かった。ストックホルムは順調らしい。
――はじめの頃は俺に触れることさえ怖がっているように見えた。見たくもないだろうニュースにチャンネルを回そうとするし、自分が食べ終わっても震えながら俺の前に座って食べる様子を見守っていた。外に出たい一心で散歩をねだり、笑顔は引きつってぎこちなかった。
それが今ではどうだろう! 見目では父子と変わらないじゃないか。
連日ネットニュースは俺をペド野郎だとか、死ねばいいとかいうコメントで溢れている。
でもいい! これは恋愛だ! 混じり気のない純粋な恋物語であり、他人を排斥しても許されるものだ。

だって恋の始まりは別に愛じゃなくたっていいだろ?
【胸が高鳴る】
連れ去られるときの胸の高鳴りはきっと恋でなかったろうけどね

3/20/2024, 2:07:26 AM