『耳を澄ますと』
朝からきっちり束ねられた小さなポニーテールが、彼女の後頭部でひょこひょこと揺れている。
携帯電話の画面に映った時刻は7時を過ぎていた。
活動時間の早い彼女は、近所をひとっ走りし終えたあとなのだろう。
その後ろ姿に無性に絡みたくなった俺は、その小さな背中にのしかかった。
ちょうどグラスに麦茶を注いでいるタイミングだったらしく、彼女はゴトンッと乱雑な音を立ててグラスを置く。
「わっ!? あぶな、いなっ!?」
「ん。すみません」
反射的な謝罪であることを見透かした彼女が、振り向きざまに俺を睨みつける。
「それ、ホントに思ってるならどいてくれる?」
じっとりとした彼女の声音に、俺は負けじと返した。
「それは無理です」
「えぇー……」
今度は困ったような調子。
コロコロと変わる彼女の感情に、クスリと息が溢れた。
それが嫌だったのか、彼女が居心地悪そうにして身を捩る。
「っ、ねえ。首元でボソボソ喋るのやめて」
「んー……?」
「くすぐったい、の」
俺の腕を解こうと、小さな手を重ねる彼女に口元が緩んだ。
「それだけですか?」
彼女の皮膚に耳を当てれば、その滑らかな肌はジワジワと熱を持っていった。
耳を澄ますと、皮膚から伝う脈打ちは平時よりも速くなっている。
つれない態度で澄ましているが、体の内側まではごまかせていなかった。
「え?」
不埒な俺の手は彼女のシャツの下を滑り込み、奥ゆかしく膨らんだ左胸を掴む。
「心臓、ドキドキしてません?」
ほんの出来心で彼女の胸の中心を指で摘んでこねたときだ。
「そんっなふうに触られたら、誰でもドキドキくらいするからっ、あ、ンっ!?」
そこそこ本気で暴れ出した彼女の口から、甘い声が溢れる。
危な。
なんだ、最後のえっちな声は。
「ちょっと。危うくキッチンでおっ始めるところだったじゃないですか。いきなりエロい声出さないでください」
「ねえっ、なんで私が怒られてんのっ!?」
「とりあえず、おはようのチューで手を打ちます。話はそれからです」
「話ってなんだよ!? なんの話をする気だよっ!」
「朝からあなたがかわいすぎて困る話ですよ。ほら、さっさとこっち向いてください」
「はぁあっ!?」
怒りにまかせて振り返った彼女の体を正面に向けて、細い顎を掴んで逃げ道を塞いだ。
大きな瑠璃色の瞳をさらに見開いた彼女の視界を俺で塗り潰す。
艶の帯びた唇を俺の唇で重ねて、彼女の吐息や鼓動や熱、彼女の反応全てに五感を澄ませた。
5/5/2026, 5:51:55 AM