ココロオドル
「最近じゃあ、心躍ることもねぇよ」
休憩時間、最近あったことについて話していると、先輩は後頭部にごつい両手をやって天井を仰いだ。
「昔はもっとこう、ワクッとしたもんだが」
「先輩は斜に構えすぎなんですよ」
強面で屈強で口数が少ない先輩は、いつも周囲から一定の距離を置かれている。本人は一匹狼の方が楽だと飄々としているが、なんだかんだ僕を相手に愚痴ってくるところを見るに、見た目に反して強がっているのだと思っている。
「最近はSNSでどんどん情報が流れてきて、何もかも知っている気になります。だから、まだ知らないことに対する探究心が薄くなるんですよ、きっと」
「なるほどな。どうりでつまらねぇわけだ」
「でも、先輩だって心躍ることもありますよね」
「だからねぇんだって」
「え、じゃあ今日、飲み行きませんか?」
その瞬間の先輩はちょっと見ものだった。驚いて少し目を開き、頬を緩めかけたと思ったら仏頂面になる。僕の顔を見る余裕がなかったのか、視線を逸らした。
「……ったく、わかってんじゃねぇか」
僕は勝ち誇った顔でにやにやした。それから、同じ楽しみを共有する感覚に嬉しくなる。誰かと踊るのもまたいいものだなと思った。
10/9/2024, 4:26:03 PM