翡翠

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優秀ですね
すごぉい
優しっ
完璧じゃん
天才
頭良くて運動できて性格も良いとか
尊敬するわ


「あはは、そんなことないよ」
だって
先生だとか
友だちだとかが求めている人
それを演じれば良いだけでしょ?

いちど演じてしまったら
もうひきかえせなくなるけどね


学校に行く前に鏡を見る。
鏡の中のわたしは
いつもお面をつけている。

笑っているお面
悲しんでいるお面
凛々しいお面
怒っているお面
無邪気なお面
明るいお面
優しいお面

先生の前では大抵
笑っているお面をつけていて

友だちの前では
優しいお面か
明るいお面

家では
こどもらしい
無邪気なお面か
笑っているお面をつけている


「自分らしくして良いんだよ」

そう言われても分からない
ジブンラシク
そう言われる度に
言葉が頭の中を上滑りする

先生が求めている理想像
友だちが求めている理想像
親が求めている理想像

それが本当の自分とかけはなれていた時
どうすれば良いのか
私には分からない



理想像を演じることは簡単だった
だって
何を求められているかが分かるから

自分らしくいることは何よりも難しかった
だって
自分が求める理想像へ矯正しようとしてくるくせ
「自分らしく」しないと怒られるから

先生の前で演じた
友だちの前では演じなかった

『良い子ぶりっこ』

先生の前で演じた
友だちの前で演じた
親の前では演じなかった

『あなた、家と学校で随分様子が違うじゃない』

先生の前で演じた
友だちの前で演じた
親の前で演じた

『優秀ですね』
『自慢の子供よ』
『優しいっ』
『完璧じゃん』
『さすが俺の子供だな』
『頭良くて運動できて性格も良いとか
 尊敬するわ』

全員の前で演じることが
一番正解だった


ある時
「ねえ、もっと自分らしくしたら?」
親がそう言った

自分がはめているお面に
ピシ
とヒビが入る

「ずっと笑っていたら疲れるでしょ?」

つかれる?
わたしはつかれてない

「学校では優等生
 友だちの前では優しい
 親の前では無邪気
 なんだか、出来すぎてる気がするの」

できすぎてる?
それがほんとうのわたしだよ

「もっと自分らしくしていいのよ」

お面がぼろぼろと剥がれ落ち始める

『うん。そうするよ、お母さん。』

私ではない何かがそう答える。


鏡の前に立つ

鏡に映るわたしの姿
手には粉々に割れたお面を持っている

私は泣いていた

「ただいまー」
お父さんの声がする

『おかえりー』
そう返すわたしの声は
泣いているとは思えないほど
明るかった

あれ
おかしいな

もう一度鏡を見る

鏡の中の
お面をはめていないわたしは
お面と全く同じ表情で
わらっていた

それを見た途端
私は激しい嫌悪感に襲われた

でも
鏡の中のわたしは
ずっと
わらっている

「気持ち悪い」

思わず呟く
そう言ったときでさえ
わたしは演じ続けていた


わたしは一人でいたい
一人でいたらきっと
演じるひつようがなくなるから


2024/8/1(木)
お題「だから、一人でいたい」







8/1/2024, 5:08:36 AM